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凛マガジン(格と洒落紋)

もくじ

●格と、洒落もん

●こんな絵柄が、ありました。

●季節はいつ?

●季節を合わせやすくするには?

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●格と、洒落もん きものには「格」があります。 留袖、色留袖、訪問着は、礼装となる、格の高いきものです。 色無地や小紋は、普段着として着用できますが、紋を入れると格が上がります(準礼装)。 ただし、小紋には「絵柄による格」もあったりして、厳密さを問うと非常にややこしくなります 入れる紋の数(五つ>三つ>一つ)によって、格は変わります。また、紋入れの手法(抜き紋、縫い紋など)でも、格は変わります。 紋の数は、きものの種類とも関連があります。多い方がいい!と、きものの種類を無視して五つ紋にすると、チグハグになるかもしれません。それに、紋を入れるべきではないきものもあります‥‥。 「洒落もん」が許される場なら、ユニークなコーディネートを楽しむことができるでしょう。 きものの絵柄でユニークなものもありますし、紬なら、きものが地味でも、合わせる帯が個性的な絵柄だと、粋な感じがします。 ユニークな柄の中で多いのが、「洋風柄」です。実際に、僕らが見たことのある、変わった絵柄を紹介しましょう。

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●こんな絵柄が、ありました。 以前見たことのある絵柄で、印象に残っているものを書いてみます。バブル期は、消費が多かったことと、変わったものが珍重される傾向があり、ユニークな絵柄が多かったように思います。 ★カーレース:訪問着でした。カーレースのコースの一部とクラシックカーが絵柄になっていました。 ★クリスマスツリー:上前に、クリスマスツリーが半分描かれたもの。 ★風車と田園風景:オランダの田園って感じの柄でした。 ★ギター、楽器類(洋楽器) ‥‥他にも思い出すと、いろいろ出てきます。 クリスマスツリーは季節感が強すぎて、着られる期間がとても短いですね(笑)。たくさんきものをお持ちの方でなければ、なかなか買っていただけないと思いますが‥‥クリスマスの頃、ツリー柄のきものをお召しになっていたら、それは注目を集めることでしょう。 楽器柄のきものでコンサートに出かけると、すごくオシャレな感じがするし、クルマが好きな方と会う時に、クラシックカーのきもので行ったら、きっと喜んでもらえるでしょう! こう考えると、絵柄や合わせ方ひとつで、相手へのおもてなしになることもあるんだと思いますねー。

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●季節はいつ? 伝統柄の中には、ハッキリと季節を示したものがあります。 たとえば、「桜」は春の柄です。では、春とはいつなのか?――「新春」と言われるように、1月はもう春です。1月~4月が、和装の「春」になります。 昔は、枝に咲いた桜と、桜吹雪(花びらが散っている様子)では、季節が異なる(枝の桜 → 桜吹雪の季節が来る)と言われたりしましたが、今はそこまで厳密に言われることはないと思います。 しかし、実際の品物で、季節がズレてるやん、いつ着るん?? と思う品物もありました。 祇園祭や、打ち上げ花火の絵柄が入った、袷のきものを見たことがあります。でも、祇園祭も花火も「夏」の柄なので、袷だと、季節に合わなくなってしまうのです‥‥あの品物は、どうなったのかなー‥‥。

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●季節を合わせやすくするには? 絵柄の季節は、実際より「少し早め」ぐらいが適切だと言われます。 季節と絵柄を合わせるのはいいとして、今は何着もきものをお持ちの方は少なくなっています。 少ない手持ちで季節に合わせる、いい方法はないのでしょうか?大丈夫! いくつかやり方があるんですよ 1.季節感のない絵柄を選ぶ幾何学模様など、無機的な絵柄があります。季節を気にせず着るには、季節感のない柄を選ぶとよいでしょう。 2.季節をまたいだ絵柄を選ぶ季節が変わっても着られるデザインがあります。たとえば、一着の中に、春と秋の花がいっしょに描かれているなど。このようなデザインは多く存在しますし、ルール違反でもありません。手持ちが少ない場合は、便利な一着になるでしょう。 きものの合わせ方には多少のルールがありますが、洒落もんの選び方や、小物との合わせ方で、いろんな楽しみ方ができます。

2018年03月01日

凛マガジン(シミ取り・ケア)

●この季節らしく‥

●代表的な汚れ

●溶解と振動

●水は凶器?!

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●この季節らしく‥‥

家電の技術も進歩しています。先日テレビを見ていたら、タンスのような形をしたボックスに衣類を吊るし、振動で花粉を落としたり、スチームが出てシワを伸ばせる、新しいタイプの衣類ケア家電が出たようです。 掃除や汚れ落としで重要なのは

1.汚れの原因や成分を特定すること

2.その成分が、何で溶解するのかを特定することです。 換気扇やレンジ周りの汚れが落ちにくいのは、汚れが付いてから時間が経ったり、ホコリやチリが混ざったり、コンロの熱によって、汚れの成分が変化しているからだと思います。

理論上は、変質した成分を溶解させることができれば、ガンコ汚れでも落ちるはずです。 呉服補正の「シミ抜き」「汚れ落とし」も、理屈は全く同じです。僕らが念入りに検品やテストを行うのは、適切な薬品類や補正方法を決めるためです。 では、代表的な汚れには、どういったものがあるのでしょうか。

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●代表的な汚れ

汚れの特定は、まず大きく2つに分けられます。ひとつは、水溶性・油溶性などの、成分的なもの。もうひとつは、どのような汚れ方をしているか? 

という状況です。 実際には、複合的なものが多いので、単純ではありませんが‥‥ 成分と汚れ方(状況)が正確にわかれば、補正の手段が決まってきます。

【食事の汚れ】新年会・歓迎会の季節に多くなるのが、日本酒やお料理のダシによる汚れです。ダシやスープは、タンパク質や油脂(植物性、動物性)が含まれていて、水も使われています。熱々のスープなら、熱による影響もあるかもしれません。

最近は鍋ブームで、スンドゥブ、トマト、豆乳‥‥とバリエーションが増えていますから、補正をするには、がっつりブームに乗って行かなければなりません(笑)。

【ガム!】ガムが付着した(T_T) という事例もあります。ガムが取れても、粘着成分が残っていることが多いです。取れないガム(もしくは粘着成分)は、揮発溶剤で落としていきます。手で取れそうでも、無理に剥がすのはNGです。

【泥】

泥はねは、見た目が衝撃的なので致命傷に思われがちですが、それほど繊維の中には入っていないことが多いです。

表面にペースト状の泥汚れが付着し、水分は繊維の中まで浸透しています。ただし、泥を落とそうとこすったりすると、二次被害(摩耗、スレ)につながることがあるのでご法度です。

余談ですが‥‥「泥染め」という染色技法がありますね。同じ泥なのに、なぜ落ちにくいのでしょうか。‥‥

それは、泥の粒子が、非常に細かいからです。 多くの泥汚れは粒子が大きいため、ザルでこしたように繊維の表面に留まっています。

泥染めの泥は、粒子も繊維の内部に入るため、落ちにくい=染料として定着しやすい のです。 ただし、超音波洗浄機など、無理に叩き出そうとすれば、多少は落ちてしまうと思います。

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●溶解と振動

さて、汚れを落とす方法ですが‥‥ 水または揮発溶剤などで、汚れを溶かし出す方法の他に、振動を与えて、繊維の内部の不純物を叩き出す というアプローチも有効です。

非常に微細な汚れの粒子や色素は、洗うだけでは完全に落ちませんが、超音波洗浄機を使うことで改善されるようになります。 超音波洗浄機は、単体ではなく、液体と組み合わせて使います。

洗浄したいものを液体に浸して超音波を当てると、液体に微細な振動が伝わって効果を発揮します。 超音波での補正には、注意が必要な点があります。超音波に限らず、呉服の補正にはよくあることですが‥‥

部分的に処理をすると、患部はキレイになるのですが、周囲との差が目立ってしまうことがあります。 よく似た例で説明すると、どんなきものも、日光や照明器具に当たると、焼け(褪色)が起こります。

着用すれば、少なからず紫外線に当たって褪色しますが、わずかな量で、全体に・均一に起こりますので、褪色には気づきません。 ところが、照明器具や展示方法、保管状況などの影響で、一部だけに紫外線が当たってしまうことがあります。すると突如、焼けた部分だけが目立つようになります。

これに似た現象で、部分的な補正では、補正が終わっても、患部と周辺との差が目立つことがあるのです。 難が直っていないのではありません。ただ、全体を見ると、補正した部分が、少し浮いた感じがします。なので、補正部分と周辺との境界がわからないよう、ぼかすなどの処理が必要となります。

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●水は凶器?!

最近は、家庭用の超音波クリーナーも発売されているようです。

「洗濯で落ちないシミ汚れも、スッキリ落ちる!」と、テレビ番組で紹介されているのを見たことがあります。 白いワイシャツに、ケチャップや黒いインクで汚れを付けます。

水や洗剤だけでは落ちないのですが、超音波クリーナーを使うと、みるみる汚れが取れていくのがわかります。(ショッピング番組ということもあり)スタジオのお客さんは、拍手喝采で絶賛していました。

なのですが‥‥僕らが見ると「これ、アカンやん!」と思うポイントがあるのです。

確かに、汚れはキレイに落ちていました。ヤラセやサクラは、なかったと思います。

実は‥‥このケースのように、超音波洗浄機で水を使うと、繊維が「傷になる」のです。ミクロの世界なので、肉眼ではわかりません。

手を洗ったりシャワーを浴びたりして、「水が鋭い!」と感じることはありませんよね。 ですが‥‥ミクロの世界で観察すると、水の分子は揮発溶剤に比べて大きく、モノを傷つけやすい傾向があるのです

もうひとつ、大切なことは‥‥水による摩擦や傷は、繊維が濡れていると目立たない ということです。

白いワイシャツのデモンストレーションは、濡れたままで汚れ落ちを確認していましたが‥‥もしシャツを乾かしていたら、肉眼でも繊維の毛羽立ちが判ったのではないかと思います。

濃い色の品物になると、毛羽立ちや「スレ」は、さらに目立ちやすくなります。超音波クリーナーをお使いの方や、購入を検討されている方は、まず使用前に目立たない部分でテストをして、さらにはテストした部分が完全に乾いた状態で、どのような変化があるか確認されることをおすすめします

2018年04月02日

凛マガジン(卒業シーズン)

●卒業式
●動画を見て
●和装と慣習
●転用可能なポイント
●再々リフォーム?!
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●卒業式
卒業式のシーズンでした。 フォーマルな式典では、若者でも和装を希望する人が多いということは、認識していました。が、これほど多いとは思いませんでした。 女子は、全員が袴。 男子も、半数以上は紋付袴、残りはスーツでした(制服がないため、学生服はゼロ)。 なかなか圧巻で、娘の成長を実感したこともあり、感動しました
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●動画を見て
式の動画は、卒業生の入場から始まります。 ひとりひとり会場に入ってくるシーンは、きものの絵柄も鮮明で、職業病なのか、つい見入ってしまいました ひとつ、職人目線のお話をしますと‥‥ きものを見ると、絵柄の入り方などから、購入品かレンタルか、だいたいわかるのです(笑)。 娘にも聞いてみると、男子の紋付袴は全員がレンタル(まぁそうでしょうね)、女子は半分ぐらいがレンタル、残りの自前チームは、半分が自分の振袖、もう半分はお母さまなどのきもの(振袖や附下)だったそうです
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●和装と慣習
京都(関西)には、「十三詣(じゅうさんまいり)」という風習があります。小学校を卒業し、中学に入る年の春、寺社にお参りするのです。 十三詣は、初めて大人用の正装をする機会になります。
大人用のきものと同じ裁ち方――僕らは本身(ほんみ)と言いますが、本裁ち(ほんだち)も同じ意味です――で、「肩上げ」という調整を行うのが、十三詣で着るきものの特徴です。 肩上げは、もともとは寸法調整のための知恵だったのですが、今は、子どもらしさを出すための演出として行わるようになっています。
娘は、十三詣で振袖を作りました。奮発したのではなく(笑)、たまたまキセちゃんの手元に、娘に着せられそうな品物があったのです。
十三詣の着物は、一般的には子どもらしい、かわいらしい絵柄が多いのですが、この商品は小紋調の柄でした。卒業式で着たのも、この振袖です。
余談ですが‥‥キセちゃんの娘は小学生で一気に成長期が訪れ、小6で160センチ超え!どうなるかと思っていたら、その後は伸びなくなって、高校まで変わりませんでした。 なので、十三詣の肩上げは、本当にカタチだけ――1センチほどつまんだだけでしたし、卒業式で着るときは、肩上げを外したらピッタリ!そのまま着られました。

十三詣以降に身長が伸びると、そのままでは着られません。(実際、十三詣のきものは、十三詣で着て終わり、というケースもよくあります)。そういう意味では、親孝行をしてくれたと思います(笑)。
彼女は、高校2年の頃から、卒業式で振袖が着たいと言っていました。 呉服職人の娘やし、和装は結構やけど‥‥一人しか居てなかったら浮くなぁー‥‥なんて思っていたら、良い意味での取り越し苦労となりました(笑)。

和装が大半の卒業式――校風なのか、地域的なものなのかは、よくわかりませんが‥‥皆さまの地元はいかがでしょうか。

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●転用可能なポイント
私事はこのぐらいにして(^_^;)、一般的な話題に移りましょう。
振袖は、結婚すると着られなくなります。ただし、訪問着に仕立て直せば、結婚しても着用できます。 思い出深い振袖を、訪問着に仕立て直して、長い間着用するのは、和装の利点です。 ただし、仕立て直しで転用を可能にするには、条件があります。
まずは、絵柄の入り方。 訪問着は、振袖よりもずっとお袖が短くなります。 袖の長さは、お好みによってもかなり変わりますが‥‥

現在、一般的に普通のきものは、縫い代を含めて一尺七寸、振袖の場合は三尺五寸ぐらいですから、だいたい倍の生地量になりますね(日本人の平均身長が伸びたことで、規格も変わっていますので、古い品物ほど生地巾が短く、生地量も少なくなります)。
訪問着にした時、お袖の絵柄がチョン切れては不自然ですから、柄行きに注意しなくてはなりません。 他にも、
☆絵柄の大きさ‥‥大きすぎると、訪問着では不自然に映る
☆彩色‥‥鮮やかすぎると、ハデハデな訪問着になってしまう(補正加工により、あとから色調を暗くすることは可能)
☆絵柄のデザイン‥‥近代的なデザインより、古典的な絵柄の方が、 転用しやすいでしょう。 などなど‥‥選び方に注意することで、訪問着にリフォームしても、自然な仕上がりになるでしょう。
いずれにせよ、色柄やデザインは全体のバランスが大切です。将来、振袖を訪問着にしたければ、購入時にお店の方に相談すると良いでしょう。
※ こちらが何も言わなくても、「こちらは、のちのち訪問着にも仕立てられる柄行きで、長く着ていただけますよー!」と、店員さんから勧められることも多いと思いますが(笑)。
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●再々リフォーム?!
もうワンステップ、上級?の転用術があります。 独身時代に着ていた振袖を、結婚してから訪問着として着たい。でも‥‥娘が生まれたら、振袖として譲ってあげたい‥‥!
訪問着に仕立て直すとき、お袖を裁断してしまうと、再び振袖の袖に戻すことはできません。
ですが‥‥振袖→訪問着→もう一度振袖 を可能にする裏ワザがあります。 訪問着にするとき、お袖を裁断せず、中に折り込んで仕立てるのです。 内側に入る生地量がかなりあるので、多少のモコモコ感は否めませんが、外見に違和感が出るほどではありません。少数ではありますが、コンスタントにいただくご依頼です。 思い出深い品物だから袖を切らないで欲しい、バッサリ切ってしまうのは、もったいない! という方の他、ご自身の訪問着として購入された女性が、「今は娘が小さいけれど、将来振袖にしてあげたいから、袖を残しておいて」とおっしゃったケースもありました。
タンスで眠っているきもの、リフォームの可能性はあるのかなぁ?嫁入り時に持ってきた振袖、訪問着にできるかなぁ?‥‥

2018年05月02日

凛マガジン(染の知恵)

●お天気と呉服づくり

●染めと乾燥

●染めの知恵――「枠場」の工夫

●伏せ糊

●悉皆屋さんの苦悩

 

===================================================== ●お天気と呉服づくり

機械が導入されるようになってからはずいぶん変わりましたが、もともと呉服の工程はすべてが手作業。

テレビなどで見かける、友禅を川で洗う作業は雨が降ってはできませんし、洗ったあとの乾燥も天然の風だけです。

作業に適したお天気でないと、仕事ができなくなります。 今は、きもののグレードや価格帯が多様化していて、伝統的な手法から機械での量産まで幅広くなっています。

伝統的な手法は量産品よりも時間がかかるし、お値段も高くなってしまいます。素材や技術に対するコストもありますが、無事完成するまでにかかる手間が膨大だからです。

生産工程が一般の方の目に触れる機会はありませんが、職人さんや悉皆屋(しっかいや)さんは、天候の影響を受けないようにいろいろと工夫しています。 まさか!と思うものもあって面白いので、ご紹介したいと思います。

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●染めと乾燥

呉服にはいろーんな工程がありますが、お天気との関わりで最初に思い浮かぶのは「染め」です。

友禅ものなどの「引き染め」(ピンと張った生地の上に、職人さんが染めていく手法)は、空気の状態が染め上がりに関わってきます。

特に、気温と湿気には注意が必要だと思います。筆やハケを使うので、いかんせん描き始めと終わりでは「時差」が出ます。 仮に、ものすごい高温の部屋で引き染めをしたらどうなるか‥‥?

生地に浸透した染料は、気温が高いとすぐに水分が気化し、乾燥が始まります。しかし、あっちの方では、まだ職人さんが作業中(>_<)染めの途中なのに、一方では乾燥が始まっている――こういう状態では、仕上がりもムラムラになってしまうのです(T_T)

伝統的な染めは、職人さんの自宅兼作業場、日本家屋特有の土間のような場所で行われることが多いです(数は減っていますが、この方法で仕事をされている職人さんは現在もいらっしゃいます)。

昔は、今のように正確な室温管理ができなかったので、職人さんが文字通り「空気を読み」(笑)、地面に水を撒くなどの調整をしていたようです。

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●染めの知恵――「枠場」の工夫

呉服の生産現場で、「枠場(わくば)」という設備を見かけることがあります。昔から使われている「手動機械」なのですが、よく考えられています。

まず、反物の両端をつなぎます。するとキャタピラのように輪っかになりますよね。これを枠場にセットすると、ベルトコンベアのように生地を送りながら作業ができるのです。 いろんな工程で使われていますが、染めの場合、ひとつの区画を染め終わって次に移る時に便利です。

さらに、染め終わった反物の乾燥を早めるため、枠場の近くに乾燥機(電熱器のようなもの)が置かれることがあります。
染め終わってしばらくした頃に、乾燥機の近くに染めた部分が回ってくるよう考えられています。

乾燥時間を短縮しながら、染めムラを防ぐ工夫がされています。 今は生産~流通のスピードが根本的に変わってしまったので、お天気が悪いから納期がズレる」という理由は通りませんが‥‥昔から、生産効率を上げようとする工夫はあったわけですね。

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●伏せ糊

染めの次にお天気の影響を受けやすいかなぁ~と思ったのが、「伏せ」の作業です。

「伏せ」は、繊維に染料が入らないよう、染める前に生地の一部をマスキングしておく作業です。

現在は、ゴムや樹脂などの扱いやすい素材が増えていますが、昔は、伏せと言えばデンプン糊でした。 デンプンは水で落ちますが、ゴムや樹脂は水に溶けません。ゴムや樹脂が呉服の伏せとして広まったのは、揮発剤が登場してからなので(おそらく昭和の初期か、それ以降)きものの長い歴史で見てみると、ごく最近のことになります。

デンプン糊の性質は、ごはんと同じです。 湿気が多いと粘りが増してしっかり吸着しますが、気温が高すぎると伸びが悪く、硬くなって剥がれやすくなります。パリパリになってヒビが入ることもあります(>_<)

「伏せ」にヒビが入ると、致命的なことになります。ヒビの間から、入ってはいけない染料が入ってきますから

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●悉皆屋さんの苦悩

お天気の影響を受ける作業は、実際にはもっといろいろあります。ここで紹介しているのは、ごく一例です。 お天気に神経質になるのは職人さんだけではありません

何度が出てきていますが、生産から商品の完成までを取り仕切る「悉皆屋さん」。

もしかすると、いちばん大変かもしれません。 なぜなら、各職人さんの所に出入りして商品の受け渡しをするのは、悉皆屋さんだからです。

2018年06月07日

凛マガジン(シミについて勘違い)

� シミについて勘違い

●ご相談を受けるとき

●前は、なかった!

●わかるんです!

●上級編


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●ご相談を受けるとき

凛にやってくる品物は、お付き合いのあるメーカーさん、問屋さん、悉皆屋さんなどからの持ち込み品の他、人づてにやってくる紹介があります。 お知り合いの業者さんに、口頭で品物や症状の特徴を伝え、直るかどうか、訊いてみて! というケースですね。 その際、きものの種類や難のタイプをお尋ねするようにしているのですが‥‥診断結果をご説明すると、先方さまの認識とズレていることがあります。

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●前は、なかった!

検品やテストの結果、ご説明するのに困惑するケースがあります。 以前、ワインのシミができたので落として欲しい、というご要望がありました。品物が届いて検品してみると、確かにありました、赤ワインのシミです。 検品とテストの結果、かなり古いシミだとわかりました。持ち主さまにご連絡して、かなり前についたシミですね?と確認してみると‥‥「いえ、数日前の外食で飛ばしたものです」とおっしゃって、説明を聞いてくださらないのです((+_+)) 無理に説明しても、話が前に進まないと思ったので、(^_^;)「では、先日のお出かけの前には、いつお召しになりましたか?」とお尋ねすると「さぁ‥‥2・3年か、もっと前かな」とのこと。 はい、その時期に付いたのであれば、症状とピッタリ合うんです!しかし、「この間の外出で着るときには、ありませんでした」の一点張りでした。 かなり時間が経っていることは明らかでしたが、目に留まらなかったのか、目立っていなかったのか‥‥。お客さまの認識とは異なっていました。 =

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●わかるんです!

付いてスグのシミか、時間が経っているかは、調べればちゃーんと判ります。 しかし‥‥持ち主さまの立場で考えてみたら、シミが出来た時期なんて関係ないことで、落ちれば良いのです(笑)。 なので、シミの古さについては言及するのを止め、落としてお納めしました。 キレイに落ちたから良かったものの‥‥補正する側にとって、シミの古さは重要です。どんな難も、発症から時間が経つほど、補正が難しくなるからです。 「付いてスグに送ったのに、なんで落ちないの?!」とならなくて、良かったなぁーと思います(笑)。

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●上級編

先の事例は、ご自分で付けてしまったシミで、わかりやすいのですが‥‥さらに難易度の高い、上級編?!の症状にも遭遇したことがあります。 きものの端っこに、ポツポツとカビのような点々が出ている、というご相談でした。長い間タンスに入れっぱなしだったから‥‥とのことで、持ち主さまは保管中にカビが出たと思われたようです。 ところが‥‥調べてみると、コレ、カビではありませんでした! その正体は‥‥驚くなかれ!なんと、製造工程中に、友禅の職人さんが飛ばしてしまった染料のシミだったのです。

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●新品だから

染色で付いたシミは、通常なら生産中に、僕らのような地直し職人のところに持ち込まれ、キレイにしてから工程に戻すのが原則です。 あってはいけないことですが、誰も気づかなかったのか、見逃されたのか‥‥そのまま販売されてしまったようです。 製造工程中の難ですから、消費者さまが直す必要はありません。カビではなかったことと、難の正体についても、お話ししました。が、こちらの持ち主さまも、「買った時には、こんなシミはなかった」とおっしゃるのです。 まぁ、新品のきものにシミがあるとは思いませんよね(^_^;)きものを買う時は、色合いや柄行きは気になっても、難を疑って隅々まで見ることはないでしょう。 しかしこのケースでも、「最初は付いてなかった、私が買ってからできたもので、早くキレイにして欲しいから、直してください」とのことでした。 ご要望が強かったので、販売店やメーカーには差し戻さず、そのまま直してお納めしました。しかし、消費者さまがお金を出して補正された点が気になり、最後まで気の毒だなぁーと思っていました。 付いたばかりだと思っていても、実はもっと前の汚れだった!というケースは、結構多いです。 時間が経ってから目立ってきたり、あと、意外と気づかずに見逃されていることも多いようです。いちばん良いのは、脱いだ直後に細かく見てみることですね‥‥。

2018年07月04日

凛マガジン(シミについて勘違い…こんなはずでは

� シミについて勘違いーこんなはずでは…

●全体に鳥が飛んでいる柄

●全体に柄のある品物

品物による補正の違

●金加工かどうか?

●金じゃなくて、良かった


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●全体に鳥が飛んでいる柄 最初にご紹介する事例は、現物を見る前に、口頭できものについて聞いていました。「全体に鳥が飛んでいる柄のきものに、カビが出たので取って欲しい」というご要望でした。 「全体に鳥が飛んだ柄」というお話から、小紋だと推測していました。が‥‥現物が届いて見てみると‥‥全体に鳥が飛んではいましたが‥‥小紋ではありませんでした。

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●全体に柄のある品物

全体に絵柄のあるきもので、流通数が多く、人気も高いのが小紋です。が、「全体に絵柄を出す」表現手法は、小紋だけではありません。

このご相談の品は、小紋ではなく「絣(かすり)」という品物でした。絣とは、白生地の製造工程で、先染めした糸を織り込んで文様を表現した織物です。

一方で小紋は、織り上がった白生地に、染料で柄を描きます。外見上は似ていますが、構造、手法はまったく違います。同じ難が出ても、対処法や難易度は違ってきます。

カビの事例で、小紋と絣の対応の違いを説明しましょう。

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●品物による補正の違い

まず、カビや汚れ、アクの難は、薬剤で処理するのが一般的です。

難がひどい場合、揮発溶剤の溶解度を上げて対応します。

1.小紋の場合小紋の絵柄(または絵柄の近く)に薬剤を使うと、染料が反応してしまい、色が飛んでしまいます。

汚れ・カビ落としを優先する場合は、絵柄の色飛びを承知の上で薬剤を使い、あとから絵柄の色を再補正します。

2.絣の場合絣は、生地を織るときに先染めの糸を使うことで絵柄を表現した織物です。

厳密には、縦糸は白で、先染め糸が使われるのは横糸だけです。絣の文様部分に強い薬剤を使うと、横糸の色が飛んで、織り文様が消えてしまいます。染料で描柄されているわけではないので、小紋のように補正することはできません。 この鳥柄のきものも、絣でしたから、本来なら補正は無理です。

持ち主さまにご説明したところ、おまかせするので、とにかくやってみて欲しいというご要望がありました。 カビが出ていた場所が、上前の肩に近い部分で目立ちにくかったこともあり、(本来的な手法ではありませんが)染料で補正できるのではないか?と考えました。

結果的には、染料で部分補正したところは近くに寄って見ない限りわからなくなり、ご満足いただけました。ただし、このお客さまが何度もご依頼をいただいているリピーターさんだったこと、おまかせすると言ってくださったからこそできた補正です。

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●金加工かどうか?

似た事例を、もうひとつご紹介します。

こちらは、先ほどよりももっと見極めが難しい案件でした。

「金刺繍が入ったきものにカビが出たけど、キレイになるかな?」というご相談がありました。 金加工は、薬剤で処理すると変色したり、金が落ちたりするので、補正の難易度が上がるのですが‥‥現物を見てみると‥‥金刺繍に見えたのは、「縫い取り」という手法でした。

刺繍と縫い取りを、外見で判断できる人は、とても少ないと思います。お客さまだけでなく、呉服関係者でも見分けられない人はたくさん居ます。 両者は、生産工程から違います。

1.刺繍:白生地に、染色を施した後、金糸で刺繍をする

2.縫い取り:白生地に、染料が浸透しない「防染糸(ぼうせんし)」と呼ばれる糸で刺繍を行い、そのあと染色工程を通る 防染糸には、あらかじめ色が付いています。

染料が入らないので、染色後も糸の色がそのまま出ます。染色工程を通った後の外見は、刺繍のように見えます。

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●金じゃなくて、良かった

結果的にこの案件は、金刺繍ではなく、縫い取りでラッキーでした。

金刺繍の場合、金糸がシミ落としの薬剤に反応してしまうので、補正前に刺繍部分をゴムや樹脂で伏せて、薬剤が刺繍に接触しないようにします。

しかし、縫い取りでは伏せを行う必要がありません。刺繍に比べると難易度は低く、時間やコストも少なく補正することができました。 刺繍で伏せてから補正をする場合、手間のかかる高価な補正になってしまいます。

なぜかと言うと‥‥ 刺繍は、生地の表と裏、両面に出ていますよね。ですので伏せも、表と裏、両方に行う必要があります。これだけで単純に、手間・時間・コストは2倍になってしまいます。

ちなみにですが‥‥このケースでは縫い取りでラッキーでしたが、逆のパターンもあります。 刺繍の商品に難が出た場合、手間はかかりますが、根本的な処置ができます。いったん漂白してカビや変色を取り、色の落ちた部分を再染色することも(大変ですが)可能です。

逆に縫い取りの場合、洗って落ちるレベルならキレイになりますが、刺繍のような「踏み込んだ補正」はできないのです‥‥。

このように、見た目が似ていても、加工の技法や工程が違う品物があります。補正する場合も、手段や技法が異なりますので、正確な見極めが必要です。

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2018年08月03日

凛マガジン(古着の特徴)

●どうしたらいい?

●古着の特徴

●クセと繊維

●キズと染め方

●引き染めのムラを消す

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●どうしたらいい?

現在出ている難について、このままだと○○年後どうなるの?といった未来予測、着用後のお手入れやリメイクのご相談もいただきます。

どんな加工をするのが良いかは、先方のご希望だけでなく、現物の状態を詳しく知る必要があります。ですが時々、現物ナシで、口頭だけでのご相談(質問)があります。 このような相談が来るのは、もっぱら業界内です。

お付き合いのあった職人さん・悉皆屋さんが廃業されたなどの理由で、相談する相手が居なくなり、わからないから凛に電話‥‥みたいなパターンです 話は親身になって聞きますが、相談だけで依頼にはつながらないので、正直時間は取られます。

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●古着の特徴

古着は消費者さまに大変な人気ですが、最近は業界でも、古い品物のご依頼が増えています。 古着で難しいのは、以前の持ち主さまがどんな着方・どんな保管をされていたか、わからないところです。

難の症状や成分は、検品やテストでわかります。が、口頭で「シミが出てる」と言われても、詳細はわかりませんし、そのきものが薬剤処理に耐えられるかもわかりません。 僕らが、極力低リスクで補正できるのは、検品やテストで繊維の状態を把握しているからです。

古着では、仕立て上がり品のご相談も多いです。こちらも、口頭だけだと不明点が多くなってしまいます。 凛で加工や補正をする場合、まず、仕立てた状態で最初のチェックをします。 全体を細かいところまで見て、難を拾い出します。あと、部分的なスレや繊維の伸びなどから、持ち主さまの動作のクセもチェックします。

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●クセと繊維

この、持ち主さまの動作のクセというのが、実は加工手段に影響することがあります。

今日は、口頭だけでの相談のデメリット、クセを見落としたために「回り道」になってしまった実例をご紹介します。 ある生地屋さんから、電話がありました。無地のきものの染め直しをしたいとのことでした。

「どうしたらエエ?」と訊かれましたが‥‥現物を見ていないので、正直わかりません。 染め直しと言っても、「引き染め」と「焚き染め」があります。

引き染めは、きものの生地を水平にピンと張り、染料を含ませたハケで染めるもの、焚き染めは、染料の入った窯に品物を浸して、染料を浸透させる方法です。 両者は、コストや手間にも違いがありますが、特に古着の場合、染め方が天地を分けてしまうことがあります。 品物の状態によっては、染めで「ボロが出る」ことがあるからです。

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●キズと染め方

引き染めと焚き染め、それぞれのリスクも説明しましたが‥‥結局その生地屋さんは、「引き染め」を選ばれたようです。

一件落着‥‥と思いきや! ‥‥しばらくして、その品物は凛にやってきました(!)「染める前はわからなかったのに、色ムラになってる」とのことです。

品物を見てすぐ、「あーあ、そらそうや」と思いました。着ていた方のクセが、見抜けていなかったのです。 古着の場合ほぼ100%、部分的な繊維の損傷があります。着用や動作によってできるもので、同じ箇所を引っ張る、膝を付くなど、繰り返し負荷がかかった部分が傷んできます。

この品物は、前身頃のヒザの辺りに「スレ」が発生していました。おそらく、正座で負荷がかかったり、ヒザと畳との接触が重なったのだろうと考えられます。 このように、繊維の状態が均一でない状態で引き染めを行うと、スレた部分に染料が溜まりやすくなります。その結果、スレた部分の色が濃くなり、ムラになったというわけです。

凛で染め直しをお受けしたら、引き染めは使いませんでした。 あとで聞いたら、「高級感があるから」と、引き染めにされたそうです。

※昔は、引き染めは焚き染めより高級感があると言われていました。 実際、コストも焚き染めよりずっと高いです。が、現在、引き染めと焚き染めの見た目は近くなってきており、業界でも見分けられる人は少ないです。 奮発した引き染めで、残念なことになってしまいました。

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●引き染めのムラを消す

良かれと思った引き染めで、二度手間になってしまったという、気の毒な実話です。

ムラムラでは商品になりませんから、ここでようやく(笑)、凛に依頼となりました。 このケースでは、まず一度、染めた色を完全に抜きました(抜染)。その後改めて、焚き染めで染色をしました。

色ムラもなくなり、ご満足いただきました このように、古着の加工では、通常の検品以外に「もうひと押し」、先を読んだ見立てが必要です。 細かく検品することで、「この状態で○○を行えばどうなるか?」という推測ができ、リスクの少ない補正ができるのです。

凛に相談して、加工は自分の知っている業者さんでやってもらう‥‥という依頼者さんの気持ちはわかりますが‥‥「それやったら、最初からウチに頼んでくれたら、悪いようにはなりませんよー」という本音もあります

2018年09月04日

凛マガジン(仕立ての腕前)

●仕立ての腕前

●上手な人ほど

●仕立て関連のトラブル事例

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●仕立ての腕前

読者さまの中にも、和裁をされる方、お勉強中の方がいらっしゃるようです。

ご自身で縫われた品物のご相談をいただくこともあります。 経験がある方ならピンと来ると思いますが、熟練者と初心者では、さまざまなポイントで差が出てしまいます。

習い始めは、「運針」という針の動かし方の基礎練習が続きます。どの部分を縫うのかで、縫い目の細かさも変わりますし、縫っているうちに生地がズレてくることもあります。うまくいかず、くじけそうになることも多いそうです。 国内では、和裁の技術を認定する資格として、「和裁技能士」という国家資格のほか、社団法人が定める資格もあります。実技試験があり、実務経験がモノを言う仕事ですね。

憶測ですが‥‥昔の日本では、女性は学生時代に和裁を身に付け、お裁縫ができることが一人前(お嫁入り)の条件になっていました。資格で技術が管理されるようになったのは、むしろ和裁人口が少なくなってきたからではないかという気がします。 現に、熟練の仕立て職人さん(特にご高齢の方)、仕事が早くて腕が良くても、和裁士の資格がない方もいらっしゃいます。

また最近は、海外での仕立ても増えています。 特にベトナムは、国を上げて技術者の養成に力を入れています。僕らもよく現物を見ますが、仕上がりが美しく、高レベルの品物が多いです。 しかも、納期も早かったりするので驚きです。過去最速は(特急扱いで料金は上乗せでしたが)、検品と日本までの輸送期間込みで、5~6日で上がったこともありました。これには驚きました!

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●上手な人ほど

仕立ては、もちろんキレイに仕上げてもらうのが一番です。 ただし、染め替えなど、仕立てをほどく場合、上手な仕立て特有の注意点があります。

腕のいい仕立て屋さんは、縫い目がしっかりしているので、ほどくのも大変なのです。 洋裁でも使う「縫い目ほどき」を使うこともありますが、和裁職人の場合、なんといってもハサミが命でしょう。

刃の先がピーンと尖っているものが使われます。消耗したり、誤って落としたりすると使えなくなるという話も聞きました。

和裁の縫い方では、生地の表面に、縫い目のアタマがわずかに出ている縫い方が美しいとされます。生地を傷つけずに、小さな縫い目をほどくのですから、神経を遣いますね。 生地を傷つけないように、丁寧にほどいていきますが、キッチリした縫い目だと、ごくまれに、縫い糸のクズが残っていることがあります。 ほどいた後、全体をチェックしますが、細い繊維の断片だと、残留に気づかないこともあります。

前回の事例でも紹介しましたが、糸の繊維が残ったまま引き染めをすると、部分的に染料が溜まって色ムラになります。 繊維の残留がないか念入りにチェックすることと、適切な染色方法を選ぶ必要があります。

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●仕立て関連のトラブル事例

最後に、これまで携わった、仕立て関連の品物のお話をします。 いちばん多いのは、仕立て糸が、生地の織目の間ではなく、織り糸を貫通しており、生地が引きつれてくる‥‥
という症状です。

仕立て中の出来事ですから、工程中に気づきそうなものですが、実は違うんです。 仕立てる際、生地はピシッと整った状態ですし、仕立て終わるとアイロンでキレイにプレスされますので、引きつれの原因は目立ちません。 検品中に見つかったり、そのまま納品され、着用しているうちに糸が引っ張れてきた‥‥という品物も、いくつも見てきました。

また、色無地だと、パーツを縫い合わせるとき、一部のパーツがウラオモテ逆になっている、という品物もありました。 一般的に反物は、「丸巻きの内側が、生地のオモテ」という暗黙のルールがあるのですが‥‥裁断して並べたりしているうちに、一部のパーツが裏返ってしまったのでしょうね‥‥。

絵柄がなかったため、裏返りに気づかず縫い合わせてしまったのだと思われます。 このようなレアな間違いは、パッと見てもわからなかったり、「何かヘンだけど、どこがおかしいのかわからない」という場合がほとんどです。

何度か着用したら、生地の糸が引きつれてきた!など、着用後のお困りごとにも対応しております。

2018年10月03日

凛マガジン(豪雨の被害品)

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**凛通信**
もくじ

●豪雨の被害品

●豪雨災害の被害は?

●意外と大丈夫!

●思い入れのある品物

●水害品の再生手順と価格

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●豪雨の被害品

最近、岡山県の問屋さんを通じて、7月の西日本豪雨で被害に遭った品物をお預かりすることになったのです。

その問屋さんが品物を卸している小売店さんが、水害に遭われたとのこと。被害の大きな地域で、直後は連絡も取れなかったそうです。安否は確認できたものの、お店は跡形もなく流され、品物も全滅

。新たに品物を仕入れて営業を再開する余裕はなく、残念ながら廃業を決意されたそうです。

地域の呉服店だったので、お客さまも近隣の方が多く、きものや帯が流されたり、水没や水濡れなどの被害が出てしまいました。 問屋さんいわく、「お店はなくなってしまうけど、お客さんに売った商品だけでも、助けてもらえませんか」ということでした。

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●豪雨災害の被害は?

正直、電話で依頼の話を聞いたとき、「これは無理や」と思ったんです。

水濡れといっても、豪雨災害の場合は、泥やアクなど、いろんな不純物が混ざっています。砂利やガレキと接触すれば、繊維が損傷している可能性もあります。

「申し訳ないけど、直る可能性は低いと思います」と、お断りする方向で話を進めようとしました。 が、「一度、品物を見るだけでもいいから‥‥」と懇願され、症状の軽そうな品物を、何点か送ってもらうことになりました。

送られてきたのは、振り袖が2点、袋帯が2点、訪問着が2点でした。なんと、タンスごと水没してしまったとのこと!被害の大きさは相当なものです。

しかし、タンスごとだったのはラッキーでもありました。タンスの引き出しに収納されていたため、ガレキに接触することがなく、引き出しのすき間から濁流の水が入り込んだのです。

引き出しのすき間より大きな石やゴミが入ってこなかったのは、不幸中の幸いだったでしょう。 キレイに畳まれたままでの水濡れだったため、目立ったシワや折れキズもありませんでした。

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●意外と大丈夫!

どんな無惨な状況か‥‥とドキドキしながら箱を開けましたが‥‥ 結果から言うと、きものと帯、合わせて6点のうち、訪問着と袋帯は、ほぼ再生できる状態でした! 

これには驚きました。 なぜ大丈夫だったのか? ‥‥決定的な理由があります。訪問着と袋帯には、ガード加工がしてあったのです!! (以前も書きましたが)ガード加工は、水分を完全にシャットアウトするものではありません。

しかし、水濡れを軽症に抑えられることは間違いありません。 持ち主さまは、濡れた品物を乾かすことなく、ビショビショのまま陰干しをされたようです。

細か~いチリのような不純物が、繊維の間に入り込んでいましたが、超音波洗浄をするとキレイに落ちてくれました。

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●思い入れのある品物

一方、ガードをしていなかった振袖は‥‥ 地色が真っ赤な品物でしたが、その赤色が水濡れでにじんだり、色の薄い絵柄の中に地色の赤色が染み込んでいました(泣き込み)。

残念ながら、こうなると再生は無理です(または、非常~に莫大な手間と時間と費用がかかります‥‥)。 思い入れがあって、同じ品物を再生したい、という場合、新しく白生地から、同じものを作り直した方が、キレイでお安く上がるかもしれません。

ですが実際は、手間やお金がかかってもいいから、できるだけ元の状態に近づけて欲しい、というご要望の方が、圧倒的に多いです。

同じものを作り直して欲しい、というご依頼もありましたが、事情が特別でした。人から借りたきものをダメにしてしまい、弁償することになったそうです‥‥。

思い入れのある品物は、「その品物」だから価値があるのですね‥‥。

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●水害品の再生手順と価格

水害の被害品を再生するには、ある程度決まった手順があります。

まず、ほとんどのケースで、仕立てをほどく必要があります。

見た目にはわからなくても、濡れた水にどんな不純物が混ざっているかわかりません。ほどかずに応急処置だけして、数年後に別の症状が出たりすると、せっかくの補正の意味がありません。

なので、よほど状態が良い場合以外、仕立てはほどくご提案、お見積りをご提示しています。

次に、各パーツが再利用できるか・できないかを見極め、使えないパーツは作り直して差し替えます。

パーツが仕上がったら、仕立て直して完了!です。

今回の水害品、僕らとしては利益除外で取り組むつもりで、見積りをお出ししました。 が、お客さまのお返事は「少し考えるので、時間をください」でした。料金が高すぎる、と言われてしまったのです。

なんで? めちゃくちゃ安くしたつもりなのに‥‥と思いましたが、これには、業界の慣例が関係しているのです‥‥。

僕らの仕事には、薬剤や消耗材などの実費があるので、最低価格を割ることはできません。そこをなんとか低価格でガンバっても、お客さまが支払う時は、別の価格が「乗っかって」しまうのです

  間に入った問屋さんが、いくらか「乗せ」ます。また、商品を売った小売店さんにも「取り分」があります。 気の毒な事情があっても、マージンはなくなりません(せめて、安くしてあげればいいのに‥‥)。

ひどいケースでは、何倍にも膨れ上がることがあります。

 

2018年11月30日

凛マガジン(格と洒落紋)

●悉皆(しっかい)という仕事

●悉皆にも分野がある

●作業はしないけど

●手腕の具体例

●助かっています

●久しぶりの再会

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●悉皆(しっかい)という仕事

京都の伝統的な呉服づくりの特徴のひとつに、完全分業制があります。各工程を独立した職人さん(または業者さん)が担っており、分業で進んでいきます(加賀など、分業でない作り方が主流の地域もあります)。

大勢の職人さんの間を行き来し、依頼者(メーカーなど)の意図を伝え、指示を出す専門職――それが、悉皆屋(しっかいや)さんです。

「悉皆」という言葉は、「すべて、みんな、一切合切」という意味だそうです。

「きもののことなら、なんでもやるよ!」みたいな仕事だとイメージしてください。 僕らの仕事も、さまざまな職人さんとやり取りしたり、生産中のものから着用後まで、品物の状態を問わずに仕事をするところは、悉皆屋さんと似ています。 逆に、決定的に違うのは、悉皆屋さんは「指示は出すが、自分では作業しない」という点です。

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●悉皆にも分野がある

ネットで「悉皆業」を検索すると、おもしろいことが起こります。

ヒットした悉皆屋さんのホームページを見ると「お手入れ」「染め替え」「仕立直し」など、掲げている仕事の容は、みんなが同じではありません(複数の作業を受けているところもありますが)。

「なんでもやる」悉皆屋さんにも、厳密には得意分野・専門分野があるからです。 悉皆屋さんの専門分野は、その方の人脈に関連します。どんな職人さんを抱えているかで、悉皆屋さんが受ける仕事が決まるからです。

黒染め専門、ロウケツ専門‥‥紋付専門、洗い張り専門、着尺(訪問着・附下など)専門‥‥紬などの「シャレもん」専門‥‥ 同じ染色分野でも、「ぼかし専門」、さらに、ぼかしでも「かすみ」「もや」など、(それ以外が出来ないというわけではありませんが)幅広くきものづくりに携わる一方で、非常に特化した専門分野を持つ仕事でもあるのです。

一例として‥‥「黒染屋さん」で紋付を作るなら‥‥
1.墨打ち(悉皆屋さんが行うこともあります)

2.ゴムをかける

3.紋を伏せる

4.黒く染める

5.蒸し・水元で伏せを落とす

6.揮発水洗でゴムを落とす また、

訪問着なら、

1.墨打ち

2.下絵

3.糸目(絵柄の輪郭)

4.友禅

5.糊伏せ

6.地染め

7.蒸し・水元(糊を落とす)

8.整理

9.金加工

10.刺繍

11.裁断→仮絵羽

‥‥と、すべてがこれと同じではありませんが、こんな風に進んでいきます。これらの工程を担う職人さんや工場が、その悉皆屋さんの人脈です。 現場監督のような仕事なので、

1着のきものに複数の悉皆屋さんが携わることはありません。 どんなきものを作りたいかで、どの悉皆屋さんに発注するか決まります。ですから、依頼する側(メーカー、問屋など)は、複数の悉皆屋さんと取引があります。

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●作業はしないけど

指示を出すだけで、自分では作業しないなんて、ズルいなぁと思われるかもしれませんが(笑)、いえいえ、違います!作業こそしませんが、悉皆屋さんの知識と人脈はすごいものです。

現場での采配が、どれほど仕事の流れを変えるのか、事例で説明しましょう。 一般的に、きもの一着分に必要な反物の長さは、「三丈物(さんじょうもの:僕らはもっぱら、『三丈もん』と呼びます)という種類です。

が、オモテ分の三丈に、八掛分がいっしょになった「四丈もん」という反物もあれば、本振袖などに使われる「五丈もん」もあります。 四丈もんの反物を使って、きものを作ることになりました。

地色を染めるため、染色工房に染めを依頼するとしましょう。すると、染め屋さんが言いました。「うちは、三丈までしか染められへんで」 こういう時に、悉皆屋さんの腕がモノを言います。

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●手腕の具体例

四丈もんを、三丈までしか染められない染屋さんで染めてもらうため、悉皆屋さんは何をするのか‥‥。

四丈もんの反物を広げ、「墨打ち(きものに仕立てるとき、裁断する位置を示す印)」をします。 つまり、「ここまでがオモテ、ここからが八掛」と、マークを付けたのです。そして、三丈の位置で生地にハサミを入れて、裁断しました。 これで、四丈もんだった反物が、三丈もんに変身! 依頼した染め屋さんで染めることができるようになりました。

このケースでは「三丈と一丈」に切り分けただけでしたが、高級な留袖や訪問着に見られる「どんぶり」と呼ばる仕立てでは、パーツの取り合わせが特殊で、複雑になります。 その場合は、三丈の設備で染められるように、かつ、取り合わせに影響が出ないように、パーツの配置を考えて墨打ちをします。

熟練の悉皆屋さんには、豊富な人脈と、工程が順調に進む臨機応変な対応、適切な指示を出す決断力、リーダーシップがあります。

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●助かっています

僕らの仕事は、生産工程で生じた難を直す依頼が大半です。そして、悉皆屋さんから仕事をいただくケースが圧倒的に多いです。

いくら補正の技術があっても、ニーズを拾いに行かなくては、受注は取れません。本来なら、地直しだって営業活動をしなければならないのです。

しかし僕らは(開業当初は除いて)、営業しなくても仕事をいただける状態です。悉皆屋さんが、凛の営業マンになってくれているからです。 悉皆屋さんを通じて手がけた商品を他の業者さんが見て、紹介で新規受注になることもあります。 きものの知識では一流の悉皆屋さん。

だから、悉皆屋さんが評価してくれると、会ったことがない業者さんにも信頼してもらえるのです。 凛には複数の悉皆屋さんが出入りしてくださってますが、中でも数人の方とは、頻繁なやり取りがあり、大いに助けてもらっています。

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●久しぶりの再会

最近、しばらく交流が途絶えていた悉皆のAさんから、ご依頼をいただきました。 Aさんは、もともと問屋さんを回って、生産中のきものを扱う悉皆業でした。が、時代とともに生産数が減ってきて、仕事も少なくなってしまったのです。

白生地から新しく作るきもの(僕らは「アタラシもん」と呼びます)を対象にしていては仕事がないと判断し、小売店さんを回り始めたそうです。 そして、小売店さんが商品を売ったお客さまを対象に、保管中に出た難や、譲り受けたきものの仕立て直し、染め替えなどを提案するようになりました。

2018年11月22日

凛マガジン(最近気になるなるあのCM)

●最近気になるあのCМ

●高値で買取、は本当?

●高値がつく品物は‥‥

●今は作れない


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古着の舞台裏について解説してみます。

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●最近気になるあのCM

読者の皆さまにも、気になっている方が多いと思うのですが‥‥ 「

古いきものや帯を、出張で買い取りします!」というテレビコマーシャルを見たことはありませんか?

中古呉服の買取業者さんは、この10年ほどで激増しています。

ここで、単純な疑問がわいてきませんか? 着なくなった古いきものがタンスに眠っている人は、そこそこいらっしゃると思います。しかし、それにも限界があります。

いずれ、買い取る品物は枯渇し、市場は飽和するはずです。それに、派手な広告宣伝をして、高価で買い取ってくれるなんて‥‥それで本当に利益が出ているのでしょうか?

コマーシャルを流している業者さんのサイトを見てみました。

テレビでは「きもの買取」と宣伝していますが、実際は、バッグや時計などの高級ブランド品、切手、毛皮などを幅広く扱っている、いわゆる「古物商」でした。

高級なきものを持っていて、売ってもいいかなぁーと思ってくれる主婦層が多くテレビを見る時間帯に、「きものの買取」とCMを流しているんでしょうね。

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●高値で買取、は本当?

業者さんのサイトに、買取実績のページがありました。(高値が付いたものを優先して掲載しているとは思いますが)、100万円を超える価格で買い取られている品物もありました。

では、少しプロの目線で解説をしてみましょう。 汚れやカビがなく、状態の良い美品なら、高く買い取ってもらえる、と思われがちですが‥‥結果から言うと、美品でも、買取価値がゼロに近くなってしまう場合もあります。

どんな品物が高い評価を受けるの? 美品でも売れにくい品物ってどんなもの?

買取業者を利用してみようかな‥‥と考えておられる方の、参考になればと思います。

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●高値がつく品物は‥‥ 「

買取実績」のページを見た瞬間、「あ!」と思った写真がありました。

100万円以上で買い取られたと書いてありましたが、これには納得できました。

有名な作家さんの作品だったからです。重要無形文化財の友禅の作家さんで、数々の賞や叙勲も受けておられる、輝かしい経歴の持ち主です。 他界された後は、技術を継承したご子孫方で作品づくりを続けておられます。

特徴のあるデザインで人気があり、先代が存命中に手がけた作品には、プレミア価格が付いています。

ブランド力のある作家さん、入手不可能な遺作などは、一般的に評価が高いです。

他に、有名な産地で作られたもの、特定の時代に作られ、作風に特徴があるもの、証紙など品質を保証するものが揃っていると、評価は高くなります。

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●今は作れない

希少価値と言えば、生産されなくなったり、作り手が激減して価値が上がる品物もあります。

一例として、「村山紬(むらやまつむぎ)」を説明しましょう‥‥。

村山紬は、東京都・武蔵村山市近辺で作られる紬です。 奄美大島の特産品、「大島紬」は非常に有名ですね。高級品として知られ、高いものだと一反数百万するものもあります。

村山紬はもともと、大島紬を真似て作られ、戦後、普及品として広まりました。当時は、「模倣品」という扱いで、高価ではなかったはずです。 ところがその後、作れる職人さん・工房が激減し、現在ではほとんど作られていません。

そのため希少価値が高まり、価格も上がっています。 このように、品物の価値や評価は、どれだけ流通しているか?によって、ガラリと変わります。 何十年という長期単位で見ると、デザインの特徴や流行も関わってくるでしょう。

古着市場の話題、残りは、次回に引き継がせてもらいます! 今日取り上げたのとは逆の例──品質はいいのに高い値段がつかないものについての解説、また、古着屋さんの舞台裏や儲かるしくみについてお話ししたいと思います。

2018年12月04日

凛マガジン(美品でも売れない)

美品でも売れない

●ブラックは不人気

●古着商の黄金期

●「大化け」の舞台裏

●値段を左右する要素

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古着のお話をしています。出張で買い取ってくれる業者さんは利益が出ているのか? という目線でお話をしました。 その続きで、古着(古物商)業界の景気や、値段の舞台裏をご紹介します。

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●美品でも売れない

前回、有名作家さんの作品で、買取価格が100万円を超える例があることを解説しました。 その逆パターンも存在します。 美品で高級品なら、高く売れて当然、だと思いますが‥‥いくら品質が良くて、カビや汚れがなくても、値段が付かない品物があります。

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●ブラックは不人気

低待遇の会社やバイトが「ブラック」と呼ばれてますが、ブラックが不評なのは職場だけではありません。 美品でも高値が付かない‥‥高値どころか、評価が低すぎて値段が付けられないのが、「黒もん」と呼ばれる品物です。

具体的には、喪服、黒留袖、黒の羽織‥‥などです。 理由は、良くない表現ですが‥‥「潰しが効かない」こと。

着用用途や場面が決まっていて、多様性がないということです。 たとえば喪服。着用するシーンは決まっていますし、紋が入っています。家のと違う家紋の入った喪服を、平然と着る人は居ないでしょう。

黒留袖は、とても豪華な柄が入っていてキレイですが、こちらも身内の結婚式や、フォーマルな祝い事に限られ、紋も入っています。 さらに、喪服や黒留袖の紋は、「日向紋(ひなたもん)」という技法で入れられているものも多いです。紋がクッキリと映えるように仕上げる方法で、紋が目立つのです。

次に、黒の羽織──こちらは時代背景も関係ありますが、着る習慣がなくなってきています。 このような理由で、少なくともきものとして利用するのは難しい品物は低評価になります。

例外として、若い女性がロングスカートやドレスにリフォームすることはあるようですが。 同じ黒もんでも、附下げや訪問着になると、やや用途が広がります。紋の数も一つが主流ですし、日向紋よりも目立たないものも多いです。自家の紋でなくても、気にならないかもしれません。

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●古着商の黄金期 10年ぐらい前から、きものやブランド品の買取業が急増し、手持ちの呉服を売ることに抵抗を感じる人も少なくなってきました。

ただ、現在の状況をみていると、市場から良品が消えつつあり、取引のピークは過ぎたのでは?という印象があります。

では、古物商──中でも、呉服の古着商がいちばん儲かった時代、儲かった業者さんて、どういう感じだったのでしょうか?

手持ちの呉服を売るという行為が一般的ではなかった時代──30~40年ほど前でしょうか──この時代に呉服の買取・転売を始めた業者さんには、大儲けしたところが多くあったと思われます

。 苦労しなくても、掘り出し物を見つけることができました。目利きのできる専門家も、今ほどは居なかったようです。 そこへ来て、1980年ごろから古着ブームが到来し、景気が一気に上昇したと言われます。 ブームになると、価格は急騰します。

この時代に、掘り出し物をたくさん在庫していた古着商さんは、大儲けできたはずです。

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●「大化け」の舞台裏

京都には、弘法市や天神市など、人気の骨董市があります

。同じようなのみの市やフリーマーケットが、全国のあちこちで開催されていますよね。 昔は、このような「のみの市」に、有名作家さんの作品や高級品が、ただの「中古品」として安く売られていることがありました。

そういう品物を千円から数千円で買ってきて、僕らのような地直しに頼んでちょっとキレイにして、数万円で売るのです。仕立て上がりの場合、ほどいて丁寧な補正を行ったとしても、相当の利益が出ていたでしょう。

古物商関係の方から、シミ抜きやカビ取り、汚れ落としのご依頼をいただくことは、よくあります。その中で、「キレイな品物だけど、このシミさえなければ」という、一点集中型の難がある場合は、大化けの可能性大です。 「コレさえなかったら、エエ値段で売れるんや。頼むわー」と、正直に事情を話してくれる人も居ます。

今はネットでの情報収集が簡単になり、足と目を使った人が成果を出す、という時代ではなくなってきました。価格や品質の比較も、自宅でできます。消費者さまも、情報通が増えていると思います。

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●値段を左右する要素 他

にも、値段に影響する要素を挙げるとすれば‥‥時代背景や寸法があるかと思います。

まず時代ですが、昭和初期~戦前ぐらいに生産された品物は、評価が高いです。この時代の品物は、残念ながら焼失されたものが多く、数が少ないのです。 また、当時はデザインの流行も違うので、「こんな友禅、今やったら置かへんよなー!」とか、「こんな地色、あり得へん!」みたいなものも多いのです。

今ではわざわざ作られることがなく、古い品物でないと手に入らない図案や絵柄は、評価が高くなります。 逆に、色やデザインとは関係ないところで値段を下げてしまうのは‥‥小さい品物(小柄な方が着用していたもの)です。 今は平均身長も伸びて、生地巾の規格も変わっているほどです。

高級品で美品でも、仕立ててある寸法が小さいと、ほぼ100パーセント、仕立直しが必要になるでしょう。 仕立てをほどくのなら、何かしらのサプライズ(^_^;)は覚悟しておくべきです。特に、褪色による色差は避けられないでしょう。 直せばコストがかかります。キレイに直して、果たして売れるのか? 利

益が出るのか?というリスクがあるのです。 大きいものから小さく作るのは簡単ですが、逆になると不可能になるか、難易度が上がるか‥‥です。

だから、小柄な方は、古着では大変お得です!!長身の人ならチンチクリンになってしまう品物も、寸法直しなしで着用できるかもしれません。

●今は作れない

希少価値と言えば、生産されなくなったり、作り手が激減して価値が上がる品物もあります。

一例として、「村山紬(むらやまつむぎ)」を説明しましょう‥‥。村山紬は、東京都・武蔵村山市近辺で作られる紬です。 奄美大島の特産品、「大島紬」は非常に有名ですね。

高級品として知られ、高いものだと一反数百万するものもあります。 村山紬はもともと、大島紬を真似て作られ、戦後、普及品として広まりました。

当時は、「模倣品」という扱いで、高価ではなかったはずです。 ところがその後、作れる職人さん・工房が激減し、現在ではほとんど作られていません。そのため希少価値が高まり、価格も上がっています。

このように、品物の価値や評価は、どれだけ流通しているか?によって、ガラリと変わります。 何十年という長期単位で見ると、デザインの特徴や流行も関わってくるでしょう。

古着市場の話題、残りは、次回に引き継がせてもらいます! 今日取り上げたのとは逆の例──品質はいいのに高い値段がつかないものについての解説、また、古着屋さんの舞台裏や儲かるしくみについてお話ししたいと思います。

2019年02月10日

31年針供養

今年の針供養風が強く寒かったですね~

ランチはレストラン「tukimisou」月見草  お料理はおいしかったですね。

工夫してお着物 着てらして着姿も美しかったですよ。

きちんと感謝とお願いをできましたでしょうか。今年も断ち損じがありませんように・・・・

2019年03月03日

凛マガジン(職人が知らない・・)

●職人が知らない品物

●衣装の世界

●これ、何?!

●ウソつき襦袢

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●職人が知らない品物

地直しという仕事を通して、糸や生地、織りや染色などの技法‥‥素材や加工には精通していると自負していますが、そういう僕らも知らない品物があります。

地直しの仕事のルートは、大きく分けて2つ。 製造工程中に生じた難(業界内)と、品物の保管中や着用時に出た難(販売後、消費者さまから)です。 この中で、補正の現場にはあまり持ち込まれない品物があります。 和装小物などに多いのですが‥‥

品物が売れたあと、使用中に汚れたり難が出たりしても、わざわざ地直し屋に依頼するほどではない‥‥

と判断されるものです。 補正コストよりも、新しいものを買う方が安かったり、プロに頼まなくても自宅で洗える‥‥など。

このような品物は、地直し屋に持ち込まれることがほとんどないので、僕らが知らないケースもあります。

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●衣装の世界

装束や衣装の類は、専門のルートや技術者が決まっているため、凛にやってくることはほとんどありません(専門職の方がお困りになって、人を介して相談が舞い込むことはありますが)。

衣装と言えば、昨年‥‥。歌舞伎の舞台裏を紹介するテレビ番組を見ました。 公演までの密着取材、お稽古の様子のほか、衣装部門の舞台裏も紹介されていました。 一般の舞台公演は、役者さんごとに衣装を誂えますが、歌舞伎は違います。 代々受け継がれた品物を使うため、役者さんに合わせて「誂える」のではなく、ひとつの品物を役者さんの体型に合わせて「仕立て直し」ます。

ほどきと仕立てが頻繁に行われるため、通常よりも粗い縫い目で縫われます。 至近距離で見られることがないため、少々縫い目が大きくてもわかりません。 舞台衣装ならではの特徴ですね。このように、衣装や装束は、一般の呉服とは違う事情や背景があります。

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●これ、何?!

お得意先の小売店さんから、ダンボール入の荷物が届きました。

当時、凛にいたスタッフのおばちゃんが箱を開けるのを横で見ていると、見たことのない品物が出てきたではありませんか! 「これ、何?」と訊くと、「知らないんですか? 『ウソつき襦袢』ですよ」と言われました。

肌襦袢を長襦袢を重ね着する必要がなく、暑い日には便利なんですよ、と説明してくれました。 読者さまにはおなじみの方が多いでしょうが‥‥僕らには、この時が初めてだったのです‥‥

ウソつき襦袢(笑)。 地直し屋で独立するまでのキャリアも含むと、呉服業界に入ってから30年になります。しかし、長い間「ウソつき襦袢」は知りませんでした。 理由は前述の通り。

ご自宅で洗えたり、クリーニングで対応できたりと、割高のコストを払って地直し屋に依頼されることがなかったのです。

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●ウソつき襦袢

ご存知の方も多いと思いますが(^_^;)嘘つき襦袢は、お襦袢を着ているように見えますが、構造が違います。

僕らは最初「ウソつき襦袢」と教わりましたが、後にそれが「大ウソつき襦袢」なる別バージョンであるとわかり、いろんなタイプのウソつき」があるのだと知りました(笑)。

通常の「ウソつき襦袢」は、袖と裾だけがお襦袢風で、他の部分はサラシなど、通気性の良い素材が使われています。長襦袢と肌襦袢の合体版のような感じです。 「大ウソつき襦袢」は、袖だけがお襦袢と同じで、上半身(身頃)だけの品物です。 また、袖が取り外せるようになっているので、汚れたり劣化したら、袖だけを洗ったり、新品に交換することができます。

他にも、二部式(上半身と巻きスカートタイプの2点セット)など、複数あります。 袖の交換は、端切れ程度の生地量で済むので、コスパが良いです。北野天満宮の「天神さん」でも、交換用の袖の生地が売られているのを見たことがあります(知らない頃は、小物を作るための端切れだと思っていました)。

付け替え用の袖には色柄ものもあるので、お手頃は価格おしゃれが楽しめるのも、メリットかもしれませんね。

2019年03月03日

凛マガジン(布地幅が足りない)

●生地巾が足らん!

●例外的な縮みと、織り工程

●標準的な生地巾

●洋服と違うところ

●正しい採寸と、美しい仕立て

●フォローが必要

●生地巾伸ばしと、着方のコツ

 

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●生地巾が足らん!

今日ご紹介するのは、反物が売れて、お仕立て→お客さまに納品されるまでの間に発生するご依頼です。

問屋さん、小売屋さん、仕立屋さんから、「品物が売れて、いざ仕立てようとしたら、生地巾が足りない」と言われることがあります。 フツーに聞いて、これはオカシイ話ですよね。 まず、2つの疑問があります。

1.生地巾が足らないのに、なぜ売れた(売った)のか?

2.本当に、生地巾が足りないのか? 売れたということは、生地巾が十分あって当然、のはずです。

売れた後で、不足に気づくということは、

1.売り手・買い手のどちらかに、勘違いがある、または、2.採寸の誤り(測り間違い・見間違い)、または、3.パーツの取合など、裁断に問題がある‥‥ などが、推測できます。

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●例外的な縮みと、織り工程

例外として考えられるのは、生産中の、または仕上がった製品が、その後の環境で縮んでしまうことです。

特にちりめんなど、糸の撚り(より)が強く、伸縮性の大きな素材は縮みやすくなります。輸送中・保管中に、空気中の水分を吸って縮み、生地巾が短くなる可能性も、ないわけではありません。

本来、生地を織る段階では、(ちりめんほど伸縮の激しい素材でなくても)、仕上がりの生地巾よりは広めに仕上がっています。 織機で生地を織る時には、糸がピーンと張られています。織った生地を織機から外すと、糸の撚りが戻り、多少の縮みが発生するのが通常です。

ただし、このような反応や寸法差は、あらかじめ判っていることですから、織る段階で、縮み分を含んだ巾が設されています。 後工程の精練(組織を整える工程)でも縮みが発生しますが、これも同様に、縮みを計算したうえで生産されています。 やはり、極端な収縮は、頻繁には起こり得ないはずなのです‥‥。

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●標準的な生地巾

「生地巾問題」は、過去にも取り上げたことがありますが、それは古い反物の事例でした。

きものの種類によって異なりますが、生地巾は、規格で決まっています。 ただし、日本人の平均身長が伸びたことなどから、時代とともに、規格の標準値が変化してきた経緯があります。 ですから、 「母のきものを、自分用に仕立て直したいが、生地巾が足りない」とか、 「古着を仕立て直すためにほどいたら、生地巾が足りない‥‥」という話であれば、理解できます。

しかし、今日ご紹介する事例は、正真正銘・今の時代につくられた、新品の反物です。 身長が高い方、手が長い方、ふくよかな体型の方は、標準より多くの生地巾が必要となります。が、多少の余裕が含まれているので、ギリギリではありません。

たとえば、振袖の生地巾は、 尺五分(しゃくごぶ・約40センチ)から、尺一寸(しゃくいっすん・約42センチ)が標準的です。身長180センチぐらいまでの方なら、この巾で対応できます。 また、現在メインで流通している製品は、九寸八分(きゅうすんはちぶ)~尺巾(しゃくはば)と呼ばれるものですが、こちらも身長170センチぐらいの方なら、十分対応できます。 これだけ余裕がある割には、生地巾不足のご相談が多いのです。なぜでしょう‥‥???

例外的な縮み(素材の性質によるもの)でなければ、採寸ミス‥‥あと、考えられるのが、採寸の知識不足です。

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●洋服と違うところ

きものを着慣れていらっしゃる方は、ご存知でしょうが‥‥ きものの袖は、洋服のように、手のひらギリギリの位置までありません。和装に慣れていない方には、気持ち悪く感じるかもしれません。

かく言う僕らも、初めてきものを着た時には、袖口の位置が短すぎるような気がしたのを、覚えています。 先輩や、親から、「きものの袖は、そういうもんや」「洋服みたいに手の甲にかぶったら、カッコ悪いでー」と言われたものです。 「裄丈(ゆきたけ)」で、解説しましょう。 裄丈は、肩巾と袖巾の合計です。

首の付け根の「グリグリ(骨が出っ張っているところ)」から、肩・腕を通って、手首の「グリグリ」のちょっと上(ひじ側)までを測ることになっています。 この手首の「グリグリ」を、洋服と同じ感覚で採ると、きものの採寸より、2~3センチほど長くなってしまうのですが‥‥意外に知られていません。

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●正しい採寸と、美しい仕立て

標準体型なのに、生地巾が足りないとすれば――稀に、身長の割に手が長い方もいらっしゃいますが、おおむね身長に比例するものなので――採寸に問題があるかもしれません。

採寸をする人(販売員さんであっても)が、正しい計測ポイントを把握していなかったことも、過去にありました。 ある依頼者さんに話を聞くと、「洋服と同じ要領で」自己採寸した寸法で仕立てに出された、と判った例もあります(正しい採寸をすれば、不足はありませんでした)。

体に合った美しい仕立てには、正しい計測ポイントと、測り方を把握していなければなりません。

★手の上げ具合(真横・斜め・真下で、寸法が変わってくる)

★一回だけでは誤差があるかもしれないので、2・3回計測して、平均を出す方が確実、などなど。 基本的な寸法以外に、体型の特徴――胸板の厚さ、肩の形状(なで肩・いかり肩)など――を細かく見ることで、ひきつれやシワが出にくい、美しい着姿になるのです。 また、素材によっても、体への「沿い加減」が変わってきます。 実際にあった話ですが‥‥

一度仕立てたお店で、別のきものを誂えた方からのご相談でした。前回と体型が変わってないので、同じ寸法で仕立てたら、なーんか違う‥‥とおっしゃるのです。 前に誂えたものと比較しますと、寸法がいっしょでも、素材の柔らかいものとハリのあるものでは、体への沿いが変わり、着心地に影響していることがわかりました。

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●フォローが必要

和装に慣れた方から見れば、「そんなん、常識やん」でしょうが、知らない方が悪い、と言い切ってしまうのは、ちょっと気の毒な気がします。

せっかく和装に興味を持って、仕立ててもらうと決めたのに、採寸方法を知らなかったために問題が発生――ですが、「その測り方、違うで!」と教えてくれる人がいれば、防げたことなのです。 その証拠、と言うと変ですが‥‥ 着付けや和裁はもちろん、お茶やお花のお稽古をされている方からの発注では、「この数字、ちょっと不自然ちゃう?」という寸法は、まず見かけません。

正しい知識を教えてくれる、先生や先輩方がいらっしゃるからだと思います。 情けない話ですが、これは売る側も同じですね 昔は、小売店さんでなくても、メーカーさん、問屋さん、みんな採寸の知識があり、「ちょっと、モノサシを当ててみる」ことを怠りませんでした。

しかし今は、生産工程は「規格分の巾があるから大丈夫」、流通部門は「販売担当の、小売店まかせ」、販売部門は「接客担当の、店員さんまかせ」‥‥と、丸投げになっている感があります。

丸投げされた最終ポジション=販売員さんが正しい採寸を知らなければ、ヘンテコな品物が誕生してしまうのでしょうか‥‥?! 

それで済まされるのは、ちょっと納得できませんよね 消費者さまには、品物や価格比較だけじゃなく、きもの全般の知識や情報がわかる機会が、作り手・売り手には、お客さまに満足していただくための教育が必要‥‥だと思うのです。

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●生地巾伸ばしと、着方のコツ

古い品物の仕立て直しなども含むと、「生地巾を出して欲しい」というご依頼は、非常に多いです。

織り方や品物の状態によって、補正の可否は変わります(中には、どんな手段でも巾出しができず、お断りすることもあります)が、素材の特性に応じた方法で処理しています。

どんな生地も、時間が経つと、元に戻ろうとする力が働きます。なので、「その時だけ」にならないよう、伸ばした寸法を定着させる処置も行っています。 明らかな寸足らずには補正が必要ですが、着こなしでカバーできることもあります。 古いきものなど、寸法が短めのものをお召しになるとき、中のお襦袢が、ちょっと顔を出してしまうことがあります。「チラ見え」によって、きものの寸足らずが目立ってしまうので、なんとか防ぎたいものです。

着慣れた方は、「襦袢がチラ見えしないように、クリップで挟んでいる」、「糸でつまんでいる」といった、賢い裏ワザを使われる方もいらっしゃいます。

2019年04月02日

凛マガジン(地色に筋)

●地色にスジが入る

●17年モノの、美品でした

●テストの結果

●色落ちと、最終対処

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●地色にスジが入る

お客様は、まず難の画像と説明を、メールでお知らせくださいました。

真紅のきものですが、胴の中央部に、シュッと一筋、白い線が入ったようになっています。 また、地色の赤色が、うっすらと胴裏に移っているとのこと。

業界で言う「泣く」と呼ばれる症状ですね。 白い線は、汚れがついたようにも見えますが、おそらく「スレ(繊維が摩擦で毛羽立ち、白っぽく見える症状)」ではないかと推測し、現物を送っていただきました。

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●17年モノの、美品でした

この品物、難こそ出ているものの、なんと購入から17年経過しているとのこと。にもかかわらず、とても状態が良いので驚きました。 それも、タンスの肥やしで美品なのではありません。

頻繁にお召しになっている証拠に、八掛の裾の部分は、擦り切れが出ています。

Aさまは、ご要望をまとめたメモを同封してくださっていました。

1.白い線を消したい。

2.胴裏に色移りした地色を、色落ちしないようにしてほしい。

3.八掛がスレているので、取り合いを変えて、スレた部分を見えないところに入れ替えたい。

4.購入してから一度も洗ったことがないので、これを機に洗い張りをしたい。

5 仕立ては、和裁のできる友人が居るので、その人に頼みたい。

とのことでした。 検品の結果、白い線は、予想通り「スレ」でした。ちょうど帯の上端に当たる部分です。着用中に帯と擦れて、毛羽立ったのではないかと思われます。 帯の当たる位置は、何度着用してもほぼ決まってくるで

しょう。

一度の着用でスレたのではなく、何度も着ていて、同じ部分が繰り返しスレてきた、と考えるのが自然だと思いました。 胴裏への色移りは、着用中に汗をかかれたのであれば、高温多湿になったことも影響するか?と考えました。

いずれにせよ、同じ症状が再発するのは困ります。 テストも含め、詳しく調べて、最適な対応を考えることにしました。

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●テストの結果

Aさまは、品物のハギレも同封してくださっていました。大小合わせて、9枚のハギレ。

まずこのハギレで、色落ちの程度を調べましょう。

最初に1枚、水で湿らせて、白布にトントンしてみると‥‥はい、うすーくピンク色が付着しました。落ちてますねぇー‥‥。

通常、このような色落ちは、引染めの染料の残留(染色工程の後の蒸し・水元で、余分な染料が十分に落ちていない)に原因があると考えられます。

ところが調べてみると、この品物、引染めではなく「焚き染め」だったのです!‥‥となると、このような色落ちは考えにくいのです。

さらに、2回目のテストで、新たな謎が出てきました。1回目とは別のハギレを使って同じテストをしたところ‥‥なんと!色落ちが見られなかったのです。 たまたま最初にテストをしたハギレが泣いたので、色落ちアリの判定を下しましたが‥‥

もし、最初にテストするハギレが別のものだったら、違った結果になっていたかもしれません。 いずれにせよ、ひとつの品物の中で、部分によって泣いたり泣かなかったり‥‥これはあり得ない話です。

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●色落ちと、最終対処

色落ち(=泣き)の症状は、難としては珍しくありません。ほとんどの場合、引染めなら蒸し・水元工程での残留染料に問題があります。

焚き染めで色落ちが起きたとすれば‥‥釜の温度が低かったか、染めた後の水洗いが不十分だったのか、水洗いの際、品物が均一に広がっておらず、部分的に洗いが弱いところができてしまったか‥‥といったところでしょうか。

僕らとしてはまず、これ以上染料が落ちないように、トコトン水洗いして残留染料をなくす‥‥という手法をご提案するのが一般的です。

この方法は「泣かなく」するための決定打ですが、残留染料が流出した分、どうしても地色が薄くなる傾向があります。 A様に確認すると、今のお色がお気に入りのこと。となれば、他の方法を選択したほうが賢明です。

水洗いをすると、染料が泣いてしまいます。そこで、ドライクリーニングの要領で「揮発洗浄」を行うことにしました。 油性の成分なので、染料は反応せず、地色を変えずに汚れ落としをすることができます。

ちなみにですが、揮発洗浄でも大丈夫だったのは、やはりこの品物の状態が良かったからです。水洗いしないと落ちない汚れなどがあれば、無理だったでしょう‥‥。

最終的に、 1.スレを取る。2.洗い張りはやめて、揮発洗浄で汚れを落とす。3.八掛は、部分的に仕立てをほどき、裾を少し内側に折り込んで、擦り切れた部分が見えないようにする。4.水との反応を最小限にするため、ガード加工をする。 となりました。

八掛は、原寸より1.5センチぐらい短くなりますが、もともと身丈が長めだったので、支障ないとのこと。 余談ですが、

この品物、以前にもガード加工をされたとのことでした。それでも色落ちしたということは、経年で効果が弱まっていたのかもしれません(17年選手ですから!) 改めて、ガードをかけ直し、色落ちや他への色移りを防ぐことになりました。

 

2019年05月01日

凛マガジン(地直しの原点)


●直し直る=元通り?

●直ったと思ったら‥‥

●見えなくなったのに‥‥

●消えても安心できない

●見えなくなってもご用心!

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●直る=元通り?

「補正」イコール「元通りに戻る」ことだと思われている方は多いでしょう。もちろん、元通りになれば「直った」と言えますが、それだけではありません。

補正には、さまざまな技術や方法があります。補正の結果、ベストな状態が「元に戻る」です。 元に戻せない難を、目立たなくするのも「補正した」ことになりますし、柄を足したり染め替えたりして、元の形とは違う仕上がりで着用できるように仕上げることも、よくあります。

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●直ったと思ったら‥‥

先の例は、難が改善されているのでまだ良いのですが、怖いのは「直ったと思ったら、実は違っていた」というケースです。 実はこれ、職人でも見誤ることがあり、注意が必要です。

「他の地直し屋さんに頼んだら、納品された時は直ってたのに、また復活してる」といったご相談が、一定数あります

これは、手抜きや粗悪というよりは、難や品物の特徴を勘違いしている場合に起こりがちです。 僕らも、「やらかしそうになった」経験があります。実際の例で説明しましょう‥‥。

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●見えなくなったのに‥‥

濃いめの色無地の品物でした。1センチぐらいのシミができ、取ってほしいというご依頼でした。水滴が落ちたような、円形のシミです。

難の除去には、揮発溶剤や水(水溶液)を使いますが、水を使う方がリスクが高いので、まず揮発のテストからスタートします。 商品の端や縫いしろの内側など、目立たないところで反応を観察します。 大丈夫だったら、揮発溶剤を使って、難の変化を見ます。揮発で反応がなかったら、水または水溶液での処理を検討します。

この品物は、揮発とブラッシングを組み合わせると、反応が良かったので「これでイケる!」と思いました。 作業後、シミは完全に見えなくなりました。

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●消えても安心できない ところが‥‥

作業が終わって、シワを取るために蒸気を当てると‥‥

さっきまで見えなかったシミが、復活してきたではありませんか! 実はこのような現象は、珍しくありません。このような反応も予測に含め、認識を持って作業する必要があります。 なぜこうなったか? と言いますと‥‥

このシミは、水溶性の糊のような成分だったと考えられます。確定はできませんが、食べこぼしなどの原因もあり得ます。 そして、その成分が、繊維の表面だけでなく、内部まで浸透していたのでしょう。 表面に付着した成分は、揮発溶剤とブラッシングで見えなくなりました。 が、内部にはまだ成分が残っていたようです。それが蒸気の熱、および湿気を吸ったことによって、表面に浮上してきたのです。

一旦は見えなくなっても、成分が完全に除去されたとは限りません。この判断を誤ると「納品時にはキレイだったのに」という事態になるのです。

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●見えなくなってもご用心!

このシミ、最終的にどんな処理をしたかと言うと‥‥

水溶性の成分だったわけですから、揮発では除去できません。なので、ぬるま湯に洗剤のようなものを混ぜた溶液を使って落としました。 絶対に「ぬるま湯」でなければダメ!というわけではありませんが、温度が高い分、水に比べて作業効率が上がります。 また、温度が高すぎて「お湯」になると、繊維にダメージを与える可能性が出たり、また熱によって染料が泣くこともあるかもしれません。作業効率は考えますが、危険なことはいたしません(笑)。 ‥‥

といった感じで、僕らのような専門職でも、最終確認を勘違いすると、不完全な状態でお納めする結果になりかねません。それを防ぐためにも、慎重な検品とテストは不可欠です。 お直しの直後はキレイだったのに、また同じ難が再発している!という品物をお持ちであれば、類似のケースかもしれません。 ところで、この「直ってないけど、見えなくなった」という現象を使って、ちょっと特殊な補正を行ったことがあります。

2019年06月01日

凛マガジン(着付けのルール)

●着付けのルールが変わっている?

●お太鼓の結び方

●仕立ても変化している!

●着方を知らないと、臆病になる?

●間違いじゃないのに

●師弟関係、奇妙なルール

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●着付けのルールが変わっている?

「昔の方は特に習ったわけでもなく、こちらからみればグダグダでも、ちゃんと来て日常生活・作業をしていました。でも今は「きっちり」「ここを折って」「裾から何センチ離して」「ここはこうでなくてはいけない」・・・・帯との組みあわせに至っては「ねばならない」ばかり。 昔は和装が「ふだん着」でしたし、キレイに着る、着崩れしないといった要素よりも、苦しくなく、動きやすいという着方が好まれただろうと思います。 比べて今は、ふだん着で和装される方は非常に少なくなりました。

きものは礼装、お出かけやお呼ばれで着る特別なもの、と捉える方が多いでしょう。 フォーマルなものと限定すると、着付け教室で教える内容も変わってきます。

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●お太鼓の結び方

パッと思いつくところでは、帯の種類が挙げられます。 帯には一般的に、袋帯と名古屋帯があります。名古屋帯は地名が名前になってはいるものの、もちろん名古屋以外でも、自由に着用できるものです。 両者の違いは、仕立て方、柄の入り方、長さ、お太鼓の作り方、です。フォーマルで使うのは、原則、袋帯です。

着付け教室では、両方とも教えてくれるみたいですが、今はフォーマルで着るきものが主流になっているため、名古屋帯はどうしても実践の機会が少なくなります。 そのため、あとで「どうだったっけ?」と思い出しにくかったり、「習ったけど着られるようにならない」と感じる方もあるようです。生徒さんの中には、名古屋帯を知らない方も少なくないそうです。 ※名古屋帯に関する動画がたくさん上がってますので、教室で教わらなくても習得できそうですが(笑)

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●仕立ても変化している!

フォーマルが主流になったことから、着付けだけでなく、反物の仕立てにも影響が出ています。 具体的には、袖丈です。今のきものは、袖丈はほぼ一律で、一尺三寸が標準だと思います。 が、ふだん着として着られていた時代は、紬やお召など(ふだん着仕様)は動きやすいように一尺三寸(人によってはもっと短め)、訪問着など格の高いきものは一尺五寸と、使い分けられていました。

二寸の差=7~8センチですから、かなり違いますね。 それだけ袖丈が違ったら、お襦袢も同じものは使えません。訪問着や附下げ用と、ふだん着用、最低2枚は必要です。 しかし今は、きものを着る機会が少なくなくなっているうえ、肌着まで2種類必要となると、敬遠されてしまいます。 袖でも紬でも併用できるよう、袖丈が短く統一される傾向があるのだと思います。

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●着方を知らないと、臆病になる?

日常的にきものを着なくなったため、着付けは教室に通って身につけるものだ、と考える人が多いでしょう。 もちろん、きちんと習うことには、価値があると思います。 ただ、和装することへの「気軽さ」というか、着る方の精神性が、今と昔では相当違うのではないかと思います。 昔の人は「私は体型が○○だから、ここはユルユルでいいの」みたいな、自分が心地よいと感じる着方を確立していて、それを恥じたりすることがありませんでした。

むしろ、他から何か言われても、居直れる強さがあったかと思います。 が、今は、自分の着付けで誰かから「おかしいわよ」など指摘を受けたら、ショックで、もうきものは着たくない、と思われる方もあるのではないでしょうか。

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●間違いじゃないのに

実際にあったことなのですが‥‥ きものの裾から八掛が見えないように、裏から目立たないようにまつり縫いで留める仕立て方があります。 留めた糸は表から見えませんが、エクボのようにポツポツとした凹みが見えることがあります。

このやり方、邪道でも何でもありません。仕立てた職人さんもベテランで、腕の良い方でした。ところが、それを見た人から、「こんなところにポツポツと凹みが出るのはおかしい」と指摘を受けたらしいのです。 持ち主さまは大変ショックで、「自分は今まで、間違ったものを着ていたんだ」とまで思われたそうです。 その一件でご相談に来られ、「間違いでも邪道でもないですよ」と申し上げたのですが、「おかしいと言われてしまったし、糸ははずしてほしい」とのことでした。

実際には、間違っていたのは「指摘をした人」だったのです。が、自分が間違っていたんだと思うと、自信も、楽しさも奪われてしまうんですね‥‥悲しいことです。 凛からお願いするとすれば、せめて紬やお召などの「シャレもん」は、少々着付けが我流であっても、自分らしさを楽しんで、堂々と着ていただけたら‥‥と思います。

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●師弟関係、

奇妙なルール 他に、着付け教室に通われている方に多いのが、師弟関係に関するご相談です。毎年、一定数あります。 笑うと失礼になりますが‥‥「先生よりも派手なきものは着られない」という暗黙のルールも、あったりするようです(驚)。 ご本人にしたら「ちょうどいい」つもりでも、先生のお目が厳しくて「派手すぎるわよ!」などと言われたら、教室にも通いづらくなりますね 習っているのは着付けであって、自由に楽しく着られるようになることが目的なのですが‥‥先生によっては、師弟関係が拘束になるケースがあるようです。

いちばんひどかったのは、先生の紹介先にお手入れ(洗い張り→再仕立て)を頼んだら、出す前よりも悪くなって帰ってきた、という事例。しかも、相当お高い代金を支払っておられました。 最終的に凛でお預かりして、補正をやり直したのですが‥‥経緯を聞いていると、出来上がりが悪くなったのは、洗い張りや仕立ての職人さんではなく、間に入った先生が、きちんと意向を確認していなかったからではないかと思いました。

もちろん、職人の技術は大切です。しかし僕らの経験上、トラブルは、依頼者さまの希望が把握できていない場合に多発するものなんです(-_-) 皆さまも、もし購入したお店に何か相談されるときは、「ここを、こうして欲しい、予算はいくらまで、無理なら○○で」みたいに、具体的に、解釈に違いで出ない伝え方を工夫してみてください。

2019年07月04日

朝の一言(平成30年1月~12月)

朝の一言 (授業カリキュラムに沿って、聞いて得した・そうなんだ~・ふ~ん  などの一言をお話ししています。一年分の話を、年末にまとめてみました。月曜クラスや夜間クラスの方は読んでみてください)

2019年07月06日

凛マガジン(整理屋さん)

●「整理屋さん」のお仕事

●5軒の整理屋さん

●「整理」のいろいろ

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●「整理屋さん」のお仕事

職人さん(お店、会社)によって、やっている業務は少しずつ異なりますが、「湯のし」がいちばん代表的ではないでしょうか。僕らは「整理屋さん」と呼んでいますが、「湯のし屋さん」と言う人もいますし。 湯のしの他に、柔軟加工や防縮加工をやっている所もあります。

湯のしは、生地の風合いを本来の状態に戻し、生地巾や織目を均一に整える効果があります。湯のしの後、絶対に必要とうわけではないのですが、セットで柔軟加工される品物が多いです(品物の種類によっては、湯のしだけの方が適していることもあります)。

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●5軒の整理屋さん

さて、ここから少々、マニアックな話になっていきます‥‥。 凛とお取引のある整理屋さん、現在5軒あります。同じような仕事なのに、なぜ5軒も必要なの?と思われるかもしれません(ちなみに、依頼する品物が多すぎて振り分けているわけではありません)。

2つ理由がありまして‥‥1つは、依頼者さまのご要望に合う加工ができる整理屋さんを選んでいる、もう1つは、整理屋さんの設備や技術に合った品物を依頼している、です。 ただ、ここまで細かいところを気にしている地直し屋は、ほとんどないと思います。湯のしを中心とした「整理」をお願いできる業者さんは、複数あります。もしかしたら、1・2軒の外注先でも事足りるかもしれません。 ですが、それぞれの特徴や良さがわかると、その良さを活かし、品物の仕上がりも、お客さまの満足度も上がるようなお取引ができれば‥‥と考えています。

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●「整理」のいろいろ

さて、「湯のし」と書きましたが、具体的にはどんなことをするのでしょうか。 基本的には、蒸気(高温多湿)を使って、生地巾や織目、風合いを整えることだと理解してください。 機械設備を使うのが主流で、生地の両端を針で留めて一定の巾にし、蒸気の出る装置の上を、コンベアのように流れていきます。 また、柔軟加工ですが、大きく分けて2つの手法があります。 こちらも、一般的なのは「機械柔軟」です。上下に付いた2つのローラーの間に、生地を挟み、圧力をかけます。均一に圧力が加わることで、生地が伸び、シワも取れます。 ところが、機械柔軟が使えない品物があります。

絞りなどが、その代表です。せっかくの「しぼ」をローラーで挟んでしまうと、ペランペランになってしまいます。 また、通常の金加工は、機械柔軟でも大丈夫ですが、「盛り金」と呼ばれる厚みのある金彩には、バインダー(接着剤の役割をする樹脂)が使われています。 バインダーには少し粘性があるため、ローラーの圧力で剥がれたり、他の部分に引っ付いてしまうリスクが出てきます。なので、機械は使えません。

品物の種類や状態にもよりますが、湯のしだけで済ませるか、液体に浸す方法を使ったりします。

2019年08月01日