凛マガジン(機場)

●メーカーと機場(はたば)

●白生地完成後の、難モノ

●生地の長さについて

●「同練り」について

●三丈もん・四反取り

●「サシが当てられる」

【オマケ】問屋さんの「いま・むかし」

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●メーカーと機場(はたば) きものづくりの最初は、糸。次に、その糸を使って、織り工程へ移ります。 製糸および織りの工程で出た難が、生地難となることが多いです。そして、その難にもグレードがあり、商品化できる可能性が高ければ、難モノであってもグレードが高くなる‥‥というお話を、前号でもしました。 そもそも白生地は、生地メーカーさんが作っていると思われる方が多いでしょうが、厳密にはちょっと違います。 日本には、丹後や長浜など、有名な織物産地がありますよね。多くのメーカーさんは、各地の織物工場(=機場・はたば)に外注して、生地を生産しているパターンが多いです。 中には、大手で産地に機場を構えている場合もあります。が、よほど生産量も売上も多くなければ、作ってもさばききれません。外注が多数だと思います。 機場とメーカーの関係は、自動車製造に似たところがあります。メーカーの下請けで部品などの製造を担う工場が、機場に相当します。 「お抱え」的に、ほぼ1社のみの受注で生産するところ、掛け持ちで何社かの注文を受けるところ、繁忙期にスポットで仕事を請ける「出機(でばた)」‥‥など、機場のあり方も様々です。 掛け持ちで生地を作る機場は、注文をもらうメーカーさんの特色や要望を把握しています。機械の設定や仕上がりをメーカーさんの特色に合わせ、ニーズに応じた製品づくりをされています。 メーカーさんは、自社のニーズを理解して、良い品物を作ってくれる機場に外注します。メーカーのニーズや品質に合う技術やノウハウを持っているのは、機場の方が多いと思います(もちろん、メーカーさんにも知識やノウハウが豊富な人材はいらっしゃいますが)。

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●白生地完成後の、難モノ

機場から納品された白生地は、通常(=難のないもの)だと、1.メーカーから問屋さんが買う2.メーカーが悉皆屋さんに外注して商品化するなどの経路で流通し、商品になっていきます。 ですが、難がある場合は、ちょっと違います。 まず、織り上がった白生地は、産地(機場)で検品を受けます。次に、生地メーカーが、売先に納品する前にも検品します。 余談になりますが‥‥白生地段階で難を見つけるのは、至難の業です。なぜなら、全部が白くて、目立たないからです。 それでも、納品前に難が見つかることがあります。難あり品なので、正反とは別にされて、流通ルートに乗ります。

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●生地の長さについて

生地難や流通の話から少し逸れてしまいますが‥‥予備知識を2つ、投入します!(笑) まず1つ目は、反物の長さについて。 反物は、同じ「一反」でも、種類によって生地の長さが違います。 「三丈物・四丈物」と呼ばれる反物があります。標準アクセントでは「さんじょうもの・よじょうもの」と言いますが、僕らは「三丈もん、四丈もん」と発音しています。 三丈もんは、一般的な仕立てで使われます。 四丈もんは、訪問着、留袖、色留袖、喪服‥‥あとは、いわゆる「エエもん」に使われることが多いです。三丈もんに比べると作られる数が少なく、加工できる設備も限られてきます。 四丈もんが三丈もんより一丈(=十尺)長いのは、「共八掛(ともはっかけ)」と呼ばれる、表生地と八掛を同じ生地で仕立てるためです。 同じ生地で八掛を作ると、表と裏のつり合いが良く、どちらか一方が伸びた・縮んだなどのトラブルも回避することができます。

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●「同練り」について そして2つ目。 白生地が完成すると、「精錬」という、反物を釜に入れて不純物を落とす工程を通ります。 精錬では、原則「四反単位で、いっしょに釜に入れる」ということになっています。釜の大きさから、四反がちょうど良いのでしょう。 同じ釜で練らないと、たとえば染料のノリが違うなど、後工程で仕上がりに差が出ることがあるため、注意が必要です。 同じ釜で練った品物は、「同練り(どうねり)」と呼ばれます。同練りの製品が区別できるよう、「練り番号」と呼ばれるロット番号が振られます。

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●三丈もん・四反取り さて、やっと本題に戻ります 「三丈もん・四反取り(さんじょうもん・よんたんどり)」という用語があります。 「同練り」の制約内で、難モノを上手に活用することができる工夫です。 三丈もん・四反取りでは、正反x3反と、難あり1反の合計4反を同練りにします。 正反3反で、きものを仕立て、難モノ1反で、3着分の八掛を作るのです。 八掛は表に出ませんし、ハサミを入れる箇所も多くなります。多少難があっても、回避できる可能性が高くなります。

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●「サシが当てられる」 もうひとつ‥‥ 呉服の知識量や技術を示す、独特の表現をご紹介します。それは「サシを当てる」です。 文字通りに解釈すれば、定規で寸法を測ることなのですが、呉服や仕立てに関しては違う意味があります。 たとえば、「サシが当てられる人」という言い方をします。これは、呉服の知識があって、反物を見れば、パーツの取り合いや絵柄の位置など、きものの完成予想図が描ける人のことです。 生地難で、反物にキズがあった場合も、「サシが当てられる人」であれば、現物を見て、キズの位置を計測し、「これなら、断ち合わせで難が回避できるな」と判断ができるのです。 そして現在「サシが当てられる人」は減っています。

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【オマケ】問屋さんの「いま・むかし」 最後に、問屋さんに関するイイ話・ウラ話をご紹介します。 1.作家を応援 昔の問屋さんには、作家さんを応援する活動が見られました。 才能はあるけど、世に出ていない作家さんを発掘し、「生地はウチが買うから、先生らしい、独創的な作品を作ってください」と、「パトロン」になることがあったのです。 残念ながら今は、問屋さんの財力も、呉服の売上も落ちているので、こういう話は聞かなくなりましたが‥‥。 2.後発品 ある品物が売れて人気が出ると、しばらくして、よく似た商品が(多くは、オリジナルより安価で)出回ることがあります。 これには、問屋さんが関係していることが多いです。 問屋さんは、流通や販売ルートに詳しい仕事です。商品が多く集まる場所に出入りしていて、他社製品をチェックできる機会も多いです。展示会などで、売れ筋商品を観察して、「ウチも同じようなやつ、やってみよう!」となるわけです。 さすがに同じルート、同じ販売先に出すとマズいですから他社製品とバッティングしないよう、うま~く工夫して、利益を上げる、みたいな感じです。

2021年10月28日