凛マガジン(藍染について)

●藍染めについて

●含有量と表記のナゾ

●天然藍の難点

●衝撃! ある匠の見解

●藍の性質と、世の中の変化
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●藍染めについて

藍染は、古くから使われている染色技法です。 ひと口に「藍染」と言っても、原料になる植物は1つではありません。日本の藍染は、「蓼藍(たであい)」という植物を使うものが主流とされますが、沖縄や北海道など、違う植物を使ったものもありますし、東南アジア、アフリカ、インド、アメリカなど、産地によって原料となる植物は違っています。 藍染の特徴は、植物から出た色で染めるのではない点かと思います。 あの深みのあるブルーを表現するために、とても手間のかかる工程を経ています。 原料となる蓼の葉を育て、収穫したら、 1.刻んで、天日干しにします。道具を使ってひっくり返すなど、均一に乾燥させます。2.せっかく乾燥させたのですが、今度はそれに水を加えます(!)3.水分を加えることで、微生物が活動し、発酵が始まります。発酵中は、「見守り」が必要な期間で、3ヶ月以上かかって、ようやく藍の染料の「素」ができます。4.これに他の成分を混ぜてカメに入れ、さらに発酵させます。 カメに入れた溶液に繊維を浸して、藍染の第一歩となるわけですが‥‥化学染料のように一度で強力染まるものではないので、何日もかけて、何度も染めを繰り返します。 そうしてようやく、「ジャパン・ブルー」が生まれるのです。 原料の植物を育てるところからスタートですが、春ごろに種をまき、収穫が夏。 そこから染料の「素」になるまで、発酵期間が3ヶ月以上!染めが始まっても、何度も繰り返して作業しなければなりません。 「もっと手早く、簡単に染められたら‥‥」というニーズが出てきて当然‥‥ですよね。

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●含有量と表記のナゾ

化学染料が登場してからは、「藍染風」の製品が多く出回るようになっています。 値札を見れば、それが伝統技法の藍を使ったものか、化学染料なのか、わかることもあります。 しかし、簡単に判断できないケースもあります。 というのは‥‥ 流通している製品の多くは化学染料が多用されており、たった1回だけ、藍から採った溶液に通す、みたいなパターンが多くあります。(藍使用 と表記するために)。 天然の藍が少しでも入ると、化学染料のみの染色に比べて、イイお値段かもしれません。また、ラベルには「天然藍使用」と表記があるかもしれません。 植物から採った藍が少しでも使われていれば、「藍」という表記をしても、違法ではありません。なので「天然藍使用」は、100%天然だと思われる方もあるかもしれません。 業界内では、表記について知っている人が多いので、「〇〇使用」で100パーセントだと思う人は、ほぼ居ないと思います。 「〇〇使用」「〇〇風」は、草木染などでもよく使われる表現です。 「玉ネギの皮1枚でも、入ってたら草木染や!」というブラックジョークもあるほどです(笑)。

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●天然藍の難点

昔から、天然藍を使った製品には、「青い色が、他の製品に移った」などのトラブルが大変多いです。 特に、「藍のきものに白い帯を締めたら、帯に青が付いた!」みたいなトラブルは、「藍のアルアル」と言ってもよいです。 むしろ、制作・販売に近い人たちは、「藍は色が移って当たり前」という認識が多数派だと思います。 色移りはよくあるトラブルなのですが、白帯に藍の青が付いた場合、「なんで白い帯なんか締めるねん!」といった反論さえ、聞こえてくることがあるほどです。 天然藍は、厳密には「繊維の内側に染料が浸透している」のではなく、繊維の表面に藍の微粒子が密着している といったイメージが近いかもしれません。 たとえば、新品の藍染の反物が入荷して、反物を持って広げたり、巻き直したりするだけで、手指が青く染まります。 もちろん、染色工程が終われば、飽和した染料を洗い落す工程があります。それでも、激しく色移り・色落ちします。 それが、天然藍の特性なのです。 また、天然藍の「藍色」は、染料そのものの色というより、酸素との接触によって発色する青 です。 だから、反物でも、長時間保管していると、外側と中心部では地色が全然違う!ということも起きますし、仮絵羽仕立てなどは、ほどくと中から全く違う、別の濃い青が出てきます。 化学染料を使うのは、単にコストを下げるだけではなく、取り扱いに神経を遣わずに済みます。 染め上がりの色が気に入ったなら、化学染料の「藍染風」でも、別にいいのではないかと思います。

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●衝撃! ある匠の見解 知り合いに、伝統的な藍染をガッツリ学んできた職人さんがいます。 彼は二代目さんで、先代(お父さま)は、伝統的な藍染技法を国内に広め、管理や流通ルートを整えた、藍染を日本に定着させたと言われている方です。 先代は、藍の色落ちの研究にも熱心で、手間をかけても、なんとか色落ちを留める方法はないかと、ずいぶん試行錯誤を繰り返されたようでした。 残念ながら、先代はもう亡くなられたのですが‥‥ その遺言書に、衝撃的なひと言が書いてあった、と教えてもらいました。 なんと‥‥「本藍は、きものに使わない方がいい」 驚きです!第一人者の見解が、きものに適していない だったとは!! ※厳密には、ここでの「きもの」は、正絹の繊維製品を指しているようです。 生前、藍染したきものの色落ちをなくすため、あれこれ手を尽くしましたが、完全に色落ちをなくすことはできないと結論されたようなのです。 加えて、他への色移りなどのリスクを踏まえると、本藍100%で、色落ちしない製品を作るのは無理だ、と判断されたのかもしれません。(先代さんにはお会いしたことがありませんし、このコメントも遺言の一部ですから、細かい話はわかりませんが‥‥)

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●藍の性質と、世の中の変化

・完全な本藍で作ったきものは、完成品でも触ると手に色が付くし、他の製品に色移りするかもしれない。・長時間タンスで保管していたら、酸素との接触程度に差が出て、一着の中でさえ、色ムラや変色が出ることもある。 こうした不具合を補正したとしても、直した瞬間から、また空気に触れます。何ヶ月、何年後に、どうなるかわかりません。 随時補正していたら、キリがない!というわけです。 また近年、評価基準の変化も「難しさ」を加速させました。 昔は、多少の色ムラや褪色・変色は「天然藍だから、こんなモンや」と、受け容れられていたはずです。 しかし、今は、「一着の中で、色が違うとはどういうことや!」と、大クレームに発展しかねません。 薬剤や技術が発達し、品質の均一化が可能になる一方で、検品の基準が厳しくなり、「味わい」「風合い」といった、フワッとした容認はされなくなっています。 だから、「本藍が好きなら、いろいろなリスクも知って、受け入れた上で本藍を選ぶ」 一方で、「色が気に入ったなら、化学繊維の方が気兼ねなく楽しめるでしょう」という考え方も、「アリ」ではないかと思います。

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2022年01月23日