凛マガジン(美品でも売れない)

美品でも売れない

●ブラックは不人気

●古着商の黄金期

●「大化け」の舞台裏

●値段を左右する要素

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古着のお話をしています。出張で買い取ってくれる業者さんは利益が出ているのか? という目線でお話をしました。 その続きで、古着(古物商)業界の景気や、値段の舞台裏をご紹介します。

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●美品でも売れない

前回、有名作家さんの作品で、買取価格が100万円を超える例があることを解説しました。 その逆パターンも存在します。 美品で高級品なら、高く売れて当然、だと思いますが‥‥いくら品質が良くて、カビや汚れがなくても、値段が付かない品物があります。

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●ブラックは不人気

低待遇の会社やバイトが「ブラック」と呼ばれてますが、ブラックが不評なのは職場だけではありません。 美品でも高値が付かない‥‥高値どころか、評価が低すぎて値段が付けられないのが、「黒もん」と呼ばれる品物です。

具体的には、喪服、黒留袖、黒の羽織‥‥などです。 理由は、良くない表現ですが‥‥「潰しが効かない」こと。

着用用途や場面が決まっていて、多様性がないということです。 たとえば喪服。着用するシーンは決まっていますし、紋が入っています。家のと違う家紋の入った喪服を、平然と着る人は居ないでしょう。

黒留袖は、とても豪華な柄が入っていてキレイですが、こちらも身内の結婚式や、フォーマルな祝い事に限られ、紋も入っています。 さらに、喪服や黒留袖の紋は、「日向紋(ひなたもん)」という技法で入れられているものも多いです。紋がクッキリと映えるように仕上げる方法で、紋が目立つのです。

次に、黒の羽織──こちらは時代背景も関係ありますが、着る習慣がなくなってきています。 このような理由で、少なくともきものとして利用するのは難しい品物は低評価になります。

例外として、若い女性がロングスカートやドレスにリフォームすることはあるようですが。 同じ黒もんでも、附下げや訪問着になると、やや用途が広がります。紋の数も一つが主流ですし、日向紋よりも目立たないものも多いです。自家の紋でなくても、気にならないかもしれません。

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●古着商の黄金期 10年ぐらい前から、きものやブランド品の買取業が急増し、手持ちの呉服を売ることに抵抗を感じる人も少なくなってきました。

ただ、現在の状況をみていると、市場から良品が消えつつあり、取引のピークは過ぎたのでは?という印象があります。

では、古物商──中でも、呉服の古着商がいちばん儲かった時代、儲かった業者さんて、どういう感じだったのでしょうか?

手持ちの呉服を売るという行為が一般的ではなかった時代──30~40年ほど前でしょうか──この時代に呉服の買取・転売を始めた業者さんには、大儲けしたところが多くあったと思われます

。 苦労しなくても、掘り出し物を見つけることができました。目利きのできる専門家も、今ほどは居なかったようです。 そこへ来て、1980年ごろから古着ブームが到来し、景気が一気に上昇したと言われます。 ブームになると、価格は急騰します。

この時代に、掘り出し物をたくさん在庫していた古着商さんは、大儲けできたはずです。

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●「大化け」の舞台裏

京都には、弘法市や天神市など、人気の骨董市があります

。同じようなのみの市やフリーマーケットが、全国のあちこちで開催されていますよね。 昔は、このような「のみの市」に、有名作家さんの作品や高級品が、ただの「中古品」として安く売られていることがありました。

そういう品物を千円から数千円で買ってきて、僕らのような地直しに頼んでちょっとキレイにして、数万円で売るのです。仕立て上がりの場合、ほどいて丁寧な補正を行ったとしても、相当の利益が出ていたでしょう。

古物商関係の方から、シミ抜きやカビ取り、汚れ落としのご依頼をいただくことは、よくあります。その中で、「キレイな品物だけど、このシミさえなければ」という、一点集中型の難がある場合は、大化けの可能性大です。 「コレさえなかったら、エエ値段で売れるんや。頼むわー」と、正直に事情を話してくれる人も居ます。

今はネットでの情報収集が簡単になり、足と目を使った人が成果を出す、という時代ではなくなってきました。価格や品質の比較も、自宅でできます。消費者さまも、情報通が増えていると思います。

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●値段を左右する要素 他

にも、値段に影響する要素を挙げるとすれば‥‥時代背景や寸法があるかと思います。

まず時代ですが、昭和初期~戦前ぐらいに生産された品物は、評価が高いです。この時代の品物は、残念ながら焼失されたものが多く、数が少ないのです。 また、当時はデザインの流行も違うので、「こんな友禅、今やったら置かへんよなー!」とか、「こんな地色、あり得へん!」みたいなものも多いのです。

今ではわざわざ作られることがなく、古い品物でないと手に入らない図案や絵柄は、評価が高くなります。 逆に、色やデザインとは関係ないところで値段を下げてしまうのは‥‥小さい品物(小柄な方が着用していたもの)です。 今は平均身長も伸びて、生地巾の規格も変わっているほどです。

高級品で美品でも、仕立ててある寸法が小さいと、ほぼ100パーセント、仕立直しが必要になるでしょう。 仕立てをほどくのなら、何かしらのサプライズ(^_^;)は覚悟しておくべきです。特に、褪色による色差は避けられないでしょう。 直せばコストがかかります。キレイに直して、果たして売れるのか? 利

益が出るのか?というリスクがあるのです。 大きいものから小さく作るのは簡単ですが、逆になると不可能になるか、難易度が上がるか‥‥です。

だから、小柄な方は、古着では大変お得です!!長身の人ならチンチクリンになってしまう品物も、寸法直しなしで着用できるかもしれません。

●今は作れない

希少価値と言えば、生産されなくなったり、作り手が激減して価値が上がる品物もあります。

一例として、「村山紬(むらやまつむぎ)」を説明しましょう‥‥。村山紬は、東京都・武蔵村山市近辺で作られる紬です。 奄美大島の特産品、「大島紬」は非常に有名ですね。

高級品として知られ、高いものだと一反数百万するものもあります。 村山紬はもともと、大島紬を真似て作られ、戦後、普及品として広まりました。

当時は、「模倣品」という扱いで、高価ではなかったはずです。 ところがその後、作れる職人さん・工房が激減し、現在ではほとんど作られていません。そのため希少価値が高まり、価格も上がっています。

このように、品物の価値や評価は、どれだけ流通しているか?によって、ガラリと変わります。 何十年という長期単位で見ると、デザインの特徴や流行も関わってくるでしょう。

古着市場の話題、残りは、次回に引き継がせてもらいます! 今日取り上げたのとは逆の例──品質はいいのに高い値段がつかないものについての解説、また、古着屋さんの舞台裏や儲かるしくみについてお話ししたいと思います。

2019年02月10日