凛マガジン(豪雨の被害品)

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**凛通信**
もくじ

●豪雨の被害品

●豪雨災害の被害は?

●意外と大丈夫!

●思い入れのある品物

●水害品の再生手順と価格

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●豪雨の被害品

最近、岡山県の問屋さんを通じて、7月の西日本豪雨で被害に遭った品物をお預かりすることになったのです。

その問屋さんが品物を卸している小売店さんが、水害に遭われたとのこと。被害の大きな地域で、直後は連絡も取れなかったそうです。安否は確認できたものの、お店は跡形もなく流され、品物も全滅

。新たに品物を仕入れて営業を再開する余裕はなく、残念ながら廃業を決意されたそうです。

地域の呉服店だったので、お客さまも近隣の方が多く、きものや帯が流されたり、水没や水濡れなどの被害が出てしまいました。 問屋さんいわく、「お店はなくなってしまうけど、お客さんに売った商品だけでも、助けてもらえませんか」ということでした。

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●豪雨災害の被害は?

正直、電話で依頼の話を聞いたとき、「これは無理や」と思ったんです。

水濡れといっても、豪雨災害の場合は、泥やアクなど、いろんな不純物が混ざっています。砂利やガレキと接触すれば、繊維が損傷している可能性もあります。

「申し訳ないけど、直る可能性は低いと思います」と、お断りする方向で話を進めようとしました。 が、「一度、品物を見るだけでもいいから‥‥」と懇願され、症状の軽そうな品物を、何点か送ってもらうことになりました。

送られてきたのは、振り袖が2点、袋帯が2点、訪問着が2点でした。なんと、タンスごと水没してしまったとのこと!被害の大きさは相当なものです。

しかし、タンスごとだったのはラッキーでもありました。タンスの引き出しに収納されていたため、ガレキに接触することがなく、引き出しのすき間から濁流の水が入り込んだのです。

引き出しのすき間より大きな石やゴミが入ってこなかったのは、不幸中の幸いだったでしょう。 キレイに畳まれたままでの水濡れだったため、目立ったシワや折れキズもありませんでした。

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●意外と大丈夫!

どんな無惨な状況か‥‥とドキドキしながら箱を開けましたが‥‥ 結果から言うと、きものと帯、合わせて6点のうち、訪問着と袋帯は、ほぼ再生できる状態でした! 

これには驚きました。 なぜ大丈夫だったのか? ‥‥決定的な理由があります。訪問着と袋帯には、ガード加工がしてあったのです!! (以前も書きましたが)ガード加工は、水分を完全にシャットアウトするものではありません。

しかし、水濡れを軽症に抑えられることは間違いありません。 持ち主さまは、濡れた品物を乾かすことなく、ビショビショのまま陰干しをされたようです。

細か~いチリのような不純物が、繊維の間に入り込んでいましたが、超音波洗浄をするとキレイに落ちてくれました。

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●思い入れのある品物

一方、ガードをしていなかった振袖は‥‥ 地色が真っ赤な品物でしたが、その赤色が水濡れでにじんだり、色の薄い絵柄の中に地色の赤色が染み込んでいました(泣き込み)。

残念ながら、こうなると再生は無理です(または、非常~に莫大な手間と時間と費用がかかります‥‥)。 思い入れがあって、同じ品物を再生したい、という場合、新しく白生地から、同じものを作り直した方が、キレイでお安く上がるかもしれません。

ですが実際は、手間やお金がかかってもいいから、できるだけ元の状態に近づけて欲しい、というご要望の方が、圧倒的に多いです。

同じものを作り直して欲しい、というご依頼もありましたが、事情が特別でした。人から借りたきものをダメにしてしまい、弁償することになったそうです‥‥。

思い入れのある品物は、「その品物」だから価値があるのですね‥‥。

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●水害品の再生手順と価格

水害の被害品を再生するには、ある程度決まった手順があります。

まず、ほとんどのケースで、仕立てをほどく必要があります。

見た目にはわからなくても、濡れた水にどんな不純物が混ざっているかわかりません。ほどかずに応急処置だけして、数年後に別の症状が出たりすると、せっかくの補正の意味がありません。

なので、よほど状態が良い場合以外、仕立てはほどくご提案、お見積りをご提示しています。

次に、各パーツが再利用できるか・できないかを見極め、使えないパーツは作り直して差し替えます。

パーツが仕上がったら、仕立て直して完了!です。

今回の水害品、僕らとしては利益除外で取り組むつもりで、見積りをお出ししました。 が、お客さまのお返事は「少し考えるので、時間をください」でした。料金が高すぎる、と言われてしまったのです。

なんで? めちゃくちゃ安くしたつもりなのに‥‥と思いましたが、これには、業界の慣例が関係しているのです‥‥。

僕らの仕事には、薬剤や消耗材などの実費があるので、最低価格を割ることはできません。そこをなんとか低価格でガンバっても、お客さまが支払う時は、別の価格が「乗っかって」しまうのです

  間に入った問屋さんが、いくらか「乗せ」ます。また、商品を売った小売店さんにも「取り分」があります。 気の毒な事情があっても、マージンはなくなりません(せめて、安くしてあげればいいのに‥‥)。

ひどいケースでは、何倍にも膨れ上がることがあります。

 

2018年11月30日