凛マガジン(カビに有効な)

●カビに有効なオプション

●ガード加工の歴史

●メジャー3社のガードと特徴

●オプション加工のオプション

●多機能はお得なの?

●ガード加工に関するウワサ

==============================

●カビに有効なオプション カビの発症を抑えるのに、効果的なオプション加工があります。それが、ガード加工です。 品物をガード液と呼ばれる化学薬品の液に浸して、水分や汚れをはじいてくれるようにします。 ガード液の成分は会社によって異なり、配合や施工手順は企業秘密ですが、大別すると「石油系」と「フッ素系」があると言われています。

==============================

●ガード加工の歴史 ガード加工とざっくり言っても、実際にはとても多くの種類があります。 その先駆けとなったのが、有名最大手の「P」社でしょう。 前身は1924年創業の老舗で、開発のきっかけになったのは海軍からの依頼だったというから驚きです。 P社が開発した撥水加工は、反物だけでなく、仕立て上がりの商品にも施工できるため、大ヒットしました。 ガード加工に参入する会社も増えてきて、現在は、加工を提供する会社も、ガードの種類も、大変多くなっています。

==============================

●メジャー3社のガードと特徴 中小企業や個人商店まで含めると、ガード加工の業者はたくさんありますが、代表的なのは、次の3社でしょう。 1.P社前述した、業界最大手です。自社開発したガード液で一躍有名になり、今では撥水加工がメイン事業になっているようです。 加工も自社工場で行っており、加工前の検品からアフターまで、総合的にフォローしています。ブランド力もあることから、価格はお高めです。 2.S社「S社」と表記しましたが、厳密には「S」はブランドの名称で、その商標を持つ会社は、1925年に英国で創業されました。 自動車塗装用のマスキングテープで業績を上げ、接着剤や防水加工へと事業を拡大。防水のスプレー缶は、一般消費者向けにも売られており、皆さまも一度は目にしたことがあるでしょう。 現在、防水加工は本体の会社から枝分かれし、防水加工専門のブランドになっています。 前出のP社と違うのは、ガード液は独自開発ですが、加工は手がけていないこと。加工業者や職人さん向けに、ガード液を販売する形態を採っています。なので、同じS社のガード加工でも、加工業者によって仕上がりに差があります。 3.T社フライパンの表面加工で有名な会社です。多くの商品があって、発注すると「どれにしますか?」と訊かれます。 メインは、ブランド名の入った「証紙」が添付される、ハイクラスのガード加工。それ以外に、お手頃価格のもの、証紙は付かないけど、ガードの効果はありますよ、というものまで多くの種類があります。 上記3社は、化学薬品や表面加工からスタートした企業ですが、現在はこれ以外に、大手呉服チェーン店なども参入しています(後述)。

==============================

●オプション加工のオプション もともと、ガード加工はオプションで行うものなのですが‥‥そのオプションに、さらにオプションがあるよ!という、ややこしい話です(笑)。 ガード加工の会社や種類が多様化するにつれ、「撥水効果以外に、こんなメリットもあります」と付加価値を謳う商品が出てくるようになりました。 具体的には‥‥柔軟加工、防汚加工、防カビ加工、静電気防止加工‥‥などなど。 厳密に言うと、ガード加工をするだけで、ある程度柔軟性は増します。また、水分が入りにくくなる分、カビは生えにくくなるんです。 が、敢えていろいろ列挙して、相乗効果を謳っている製品もあります。また、撥水以外に、他の効果も得られるように開発されたガード液もあります。 もうひとつ、きものメーカーなどのガードに多いのが「保証期間」です。ガードをかけてから、5年以内に不具合が出た場合は、無償で再加工します、というものです(5年だと、長い方だと思いますが‥‥)。 「保証期間内なら、ガードの再加工だけでなく、汚れ落としも無料!」と謳っている呉服販売チェーンもあります。 保証を付けると、その分価格は上がります。しかし、期間内は無償、汚れ落としまでやってくれるの?! というお得感で、付帯される人も多いようです。

==============================

●多機能はお得なの? 僕らの工房には、ガード加工の依頼も、ガード加工をした品物の補正依頼も、両方あります。 皮肉なことに‥‥ガード加工が原因で、別の難を発症してしまうレアケースが、一定数あります。 パターンとしては、2つ。 1つは、加工業者が外部からガード液を仕入れたり、自社配合している場合。これは、ガード液そのものより、施術の方法や手順が原因になっていることが多いです。 コスパ重視で、一度の加工で多数の、または長時間同じガード液を使い続けると、汚れっぽい、くすんだ仕上がりになることがあります。高価なガード液を使っていても、加工のやり方に問題があると、美しい仕上がりにはなりません。 2つめは、あくまでも経験上の感覚ですが‥‥なぜか、難の出るガード加工は、前述の「多機能ガード」に多いように感じます。 特に、地色の黒い喪服は、発症すると目立ちやすく、ガード難の中でダントツ1位です。 さらに、保証期間のあるガードでも、不思議と保証期間を過ぎた頃から、難が出やすくなります。 誤解されがちですが、ガード加工は、未来永劫効果を発揮するわけではありません。摩擦が生じやすい場所、よく動かす部位は、経年で効果が落ちてきます。 雨傘も、新品は雨粒が美しい玉になって流れますが、長年使っているとダラーっとなってきますよね。あれと同じだと思ってください。

==============================

●ガード加工に関するウワサ 最近、ネットや雑誌で、ガード加工のデメリットを取り上げた記事が増えています。 丁寧に説明されているものもありますが、中には説明が不完全だったり、誤った認識から書かれているものもあります。 以下、デメリットについて多く見られたものを、職人目線で解説します。 1.水をはじくから、伝統的な洗い張りができない。 「伝統的な」と断ってあるのが気になりますが、ガード加工後も、洗い張りは可能です。ガードは、水を完全にはじくのではなく「水分が浸透しにくくなっている」のです。洗うために水分を繊維内に取り込む方法はありますし、そのための薬剤もあります。洗ったあと、薬剤成分が残らないように処理すれば、再びガード加工が復活します。 2.水をはじくから、染め替えができない。 染色には「引き染め」と「焚き染め」があります。引き染めは、染料をはじく、またはムラになってしまうのでできませんが、焚き染めは可能です。また、部分的な引き染めなら、そこだけガードを除去することもできます。 ただし、失敗すると事故になるので、技術のある専門家や業者さんに相談されることをお薦めします。 3.常温、または冷水には有効だが、ホットドリンクなど温度の高い液体だと浸透を防げない。 これは正解です。あと、油溶性の成分はガードで防ぐことはできません。 会食で、ステーキソースが飛んだ商品をお預かりしたことがあります。「ガード加工してるのに、シミになった!」とご不満でしたが、ガードは油性の成分には効きません。 ただ、油性のシミは、難の中でもいちばん簡単に落とせるものです。変質するまで放置しなければ、キレイに取れます。 4.仕立て上がり品で、汚れがあることに気づかずガードをすると、取れなくなる。 こちらも認識違いがあります。ガードをしていると、汚れ成分の酸化が始まるタイミングは遅くなります。だから、短期間で重症化することはありません。前述のガード除去処理を行えば、あとからでも落とせます。

2023年10月31日