凛マガジン(なぜ?シミ取り)

●血だらけのきもの

●なぜ、こんな付き方に?!

●半日がかりで作業

●憶測ですが‥‥

●直後なら大丈夫

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●血だらけのきもの

つい最近のことですが、1着のきものが送られてきました。送り主は、あるきものメーカーさん。 依頼者さまは一般の方で、購入されたお店→問屋さん、という、ルート逆行のパターンです。 箱を開けてビックリ! 薄いベージュ色のきものの、あちこちに血が付いているのです!

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●なぜ、こんな付き方に?!

血というだけで、ビジュアル的にはかなりのインパクトです。ただ、血液汚れという症状、実はさほど珍しくありません。 女性特有のものもありますし、皮膚炎などで、腕から出血しているのに気づかず、お襦袢の内側にスレたように血がついてしまった‥‥などのご相談は多いです。 この案件で不思議だったのは、血の「付き方」でした。スポイトで落としたように、ボトッと付いているところもあれば、シュッとかすめたように付いているところもあります。そして、付き方や大きさこそ違えど、きもののほぼ全体に付いているのです。 これはいったい、どういうことや?!何をしたら、こんな風に付くんやろう?! 血液を落とす処置が第一ですが、同時に「なんでこんな付き方を?」が、頭の中でグルグルしました。

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●半日がかりで作業

この品物、良かった点は、血液が付いてスグに送って下さったことでした。 しかし、全体に血液が付いていましたので、時間はかかりました。シミひとつにかかる時間は大したことないですが、数が多いこと、付き方もひとつずつ違うので、薬剤や道具を使い分けて対処しました。地味~な作業ですが、半日かかりました。 で、お納めする時、持ち主さまに、なぜこんな付き方をしたのか、訊いていただきました。 シミの数と全体に点在していた点が、どうしてもナゾだったのです。

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●憶測ですが‥‥

後日、経緯がわかりました。血液は、着用されたご本人のものではなかったのです。 着付けをしてもらったそうで、その着付けの先生が指をケガされて、出血していることに気づかなかったそうです! 思いがけない理由でしたが、なるほど、これならいろんなところに付いていたのは納得できます。 ただ、やはりナゾが残ります。 知らないうちにケガをされたとしても、あれだけたくさん付くまで気がつかないものだろうか?‥‥これがわかりませんでした。 で、ここからは推測なのですが‥‥ 着付けをしてもらう時、先生は、ご自身よりも、きものを着る人に、着姿全体かわかるように姿見を使われることが大半です。 僕らも、自分たちの作業場に置き換えてみました。 作業に使うコテ、筆やブラシ、ピースガン‥‥いろんな道具類がありますが、すべて場所が決まっていて、使う度にいちいち目視したりはしないのですね‥‥。道具の場所は体が覚えていて、見なくてもスッと手を伸ばして取っています。 なるほど、着付ける側って、意外と手元を見ていないかも‥‥と気づきました。 着せる人を姿見の前に立たせ、着付け師は後ろから手を回して、着姿を見ながら着付ける‥‥このやり方だと、鏡からは距離がありますし、血液ジミは見えなかったかも知れません。 着せてもらう方も、着姿に気を取られると、先生がケガをされていることには気づきにくいでしょう。おそらくこうした経緯で、気づくことなく血が付いてしまったのではないか‥‥と考えました。

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●直後なら大丈夫

先ほども書きましたが、この品物は、付着した直後に相談してくださった点がとても良かったです。 検品すると、一箇所だけ、とっさにおしぼりか何かで押さえたような跡はありましたが、それ以外はノータッチでした。 なので手間と時間はかかりましたが、結果的にはキレイに落ちてくれました。 これが、時間が経ってから気づいた場合は、事情が変わってきます。 血液はタンパク質を含んでいるので、時間が経つと必ず凝固します。さらに時間が経つと、変質や繊維の損傷を引き起こします。 運良く赤い色味が落ちたとしても、この蛋白成分が落ちていないと、凝固→変質は避けられません。 以前、業者さんの自己処理で、過酸化水素水で血液を消そうとした人がいらっしゃいました(!!)結果的にお手上げで凛に相談が入ったのですが‥‥過酸化水素水は消毒薬のような成分で、血液の赤みは落ちてくれます。 ところが成分を根本的に除去できたわけではないので、血液の付いた部分だけが固くなり、使い物にならなくなります。 できるだけ直後に対応することと、正しい処置を施すこと。これが2大鉄則だと思っています。

2020年01月05日