凛マガジン(コロナで見えたもの)

 

●コロナで増えたもの

メルマガでは、コロナで外出しない=和装する機会もない→だからお手入れも必要ないではなく、きものを着る機会が減っている今こそ、タンスの中を開けてみて、愛用品のお顔を見てあげましょう!とお勧めしてきました。 その甲斐あって、複数の読者さまより「しばらく着てないけど、変なところがないか見て欲しい」というご依頼をいただきました。 これとは少し違いますが、コロナで仕事が少なくなった分、業界内からのご依頼も、状況が変わってきているのです‥‥。 業界内からの補正依頼、コロナ以降で急に目立っているのが、「検品の厳格化」です。時間ができた分、細かく見てしまうのかもしれません。 もちろん、それが本当に難なら、喜んで補正させてもらうのですが‥‥冒頭で「少々面倒なご依頼」と書いたのは、本来なら生地難だとみなされないようなものも、「難」として扱われ、「要補正」のシールが貼られているのです。 シールの数は、一反当たり100ヶ所を超えるものもザラにあります。ここまで極端なご依頼は、コロナになってから多くなったような感じがしています。

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●「正しい難」とは?

難が「正しい」というのはおかしな表現ですが、あえてこのように書いてみました。今日の話題は、本来的には生地難に該当しないものがあるからです。 では、本来的に「生地難」だと認められる症状には、どんなものがあるのでしょうか? まず、節(ふし)です。生地を織る工程で、糸を繋いだ結び目が、生地の表側に出ると、プツンとした糸の出っ張りができます。 これはまだ、白生地の状態です。 白生地の反物が売れると、染色工程に入ります。このまま節を処置せずに染めてしまうと、節の部分に染料が溜まり、プツンと濃い色の「点」ができてしまいます。ですから節は、染める前に見つけて、取り除かなくてはなりません。 直し方は、節の周辺の糸を調節して、節の出っ張りを生地の裏側に移動させる‥‥というのが、いちばんポピュラーな方法です。 もうちょっと重傷になると、節から糸が引っ張られて長く出ていることがあります。織りに影響がなければ糸を切って、裏側で繋ぎなおすこともあります。いずれにせよ、表側には突起物が出ないように処置します。

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●糸にテンション

織物は、縦糸と横糸の組み合わせで出来ています。織り工程で横糸を新しいコマに変更するとき、短時間ですが織機を停止させます。 短い時間なのですが、機械を停めている間、縦糸にかかる力(テンション)が微妙に変わります。その影響で、縦糸に対する横糸の密度も変わります。 結果、完成した反物に横スジが入っていたり、その部分だけ、または織機の停止地点から数センチにわたって、生地の光沢感に差が出ることがあります。 これを取り除くのに、いったん織り上がった生地の糸を動かして力加減を調整して‥‥という方法は無理です。組織はいじらず、見た目の違和感がなくなるように、品物ごとに対応を考えます(光沢感や段に見える症状は、一点一点、特徴が違うため)。 これらは、明らかな生地難であり、僕らの補正領域です。 手前味噌ですが‥‥こうした織機の作動で生じる難に対応する地直し屋は、ほとんどないそうです(自覚していませんでしたが)。なので、おかげさまで京都のほぼ全ての生地屋さんとお付き合いさせていただいています。

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●難とは違うのでは??

では、具体的に「これを難と呼ぶのは殺生や‥‥」と思ってしまうシールは、どんな箇所に貼られているか説明します。 節やキズではないのに、見え方が少し違う?と思われるところに貼ってあるシールが、とても多いです。 仕立てれば裏側に入ってしまう部分の、目立たない症状にもシールがあります。仕立てれば見えなくなるのですから、わざわざ直す必要はない、と(少なくとも旧来は)考えられていました。 伝統的なきものの製造、仕立てでは、着用時にどうなるか?という「完成図」を配慮して補正されてきました。 ただし、これには「この反物を仕立てたら、どこが身頃になるか、袖はどこか」といった、各パーツの形や取り合わせが把握できていなければなりません。 近年、表も裏も関係なく難の指摘が入るのには、こうした専門知識を持たない検品担当者が増えているのでは?と思ってしまうこともあります‥‥。

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●会社単位で‥‥

なぜ、専門知識のない販売員さんが増えているのでしょうか?? 原因はいろいろあるでしょうが、僕らが思うに、バブル期ぐらいから販売の方法や流れが変わってきたことに関係がある気がします。 バブル全盛期、高級なきものがバカ売れしたことがありました。 その頃から、老舗の呉服屋さんよりも、大規模な量販店がポピュラーになってきたように思います。 大きな会社組織にして、大量に問屋さんに発注する代わりに、値段交渉でできるだけ安く仕入れ、派手に宣伝を打ち、芸能人にお見立てをしてもらえる展示会など、本当にバブル感満載でした。 バブル期とは違いますが、現在も、会社組織による販売で大きな利益を上げているところがあります。 きものの販売だけでなく、和装に関するサービスを幅広く手掛けている会社さんが多いです。和文化や和装に関するイベントなどを企画し、無料や激安で参加できるものもあるので、きものが好きな方は参加したくなるでしょう‥‥。 で、イベントだけで終わればいいのですが、参加者さんのグループを伴って、展示会場に案内されることがあるそうです。直接販売はしなくても、うまく誘導ルートを使って、販売活動につなげているのです。 店や会社の名前は違うけれど、イベント運営会社と販売会社が同じグループ企業、ということもあります。

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●検品も仲間内 最近知ったのですが、多数のシールが貼られた地直し依頼品の中に、大手グループ企業からの品物がありました。調べてみると、イベント運営会社、販売会社の他、検品を専門に行う会社も、同じグループの傘下であるとわかりました。 大量の地直しクレームで返品が増えるため、中には「できれば取引したくない」という問屋さん・メーカーさんも出始めているようです。 一方、「無理難題を言われるけど、たくさんお客さんを連れてきて、販売もしてくれるので、付き合いがなくなると売上が厳しい‥‥」という意見もあり、目下賛否両論という感じです。 和装イベントは楽しそうだけど、高いきものを買わされたくない‥‥という方、お友だちといっしょに参加して、ノーと言いやすくするなど、いざという時の「保険」を用意しておかれると良いかと思います(笑)。

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●バブルの思い出話──

為書き、返品、ご縁 最後に、量販システムが広まったバブル期のトラブルをご紹介します。 現在でこそ、クーリングオフなど消費者を守る制度がありますが、昔はありませんでした。訪問販売や展示会でノーと言えない状況をつくり、高価な商品を買わされてしまった、という事例が多く出ました。 呉服関係の仕事をしていますので、きものは売れてほしいです──でも、無理強いや押し売り的な方法は、やはり不誠実だと思います。 ある付加価値サービスを「返品防止策」として使う業者さんも出てきました。作家の先生による「為書き(ためがき)」です。 為書きは、下前の奥に、友禅作家さんなどが「○○さんの為に作りました」という意味で「為 ○○」と墨や金で書き入れるものです。スーツの名入れに似ていますが、作家さんのサインでもあり、高級感・特別感が高まります。 無理して高級品を買ってしまっても、為書きが入ってしまうと、「持ち主確定!」となり、キャンセルを切り出しにくくなってしまいます。この心理を見込んで、「為書きします」をセールスポイントにした業者さんがあったのです。 ところが、これを覆す出来事がありました。高級品をローンで購入されたマダムでしたが、なんとローン審査に通らなかったのです(!) 売ったところで、支払能力なし=売上金が入らない、ということ。これでは、お店も販売できません。 で、僕らのところに来た依頼は‥‥「為書きを消してほしい」というものでした(笑)。 キレイに取らせていただきましたので、その後、別の方に販売されたことでしょう‥‥。昔ならではのエピソードです。 ところで‥‥「きものはご縁のものですよ、今日この品物を見たのは、買うのにふさわしいタイミングです!」「人気があるので、またご来店いただいても、売れているかもしれませんよ」と勧められたことはありませんか? これ、昔も今も、非常によくあるセールストークなんです。たしかに「そうかも!」と思ってしまうかもしれません。が! 少しクールダウンして考えてみても良いと思います。 「本当にご縁があるなら、今日じゃなくても、またいい品物に出会える!」と考えると、気がラクになりませんか?(笑) 高いお買い物、長いおつきあいをするものですから、後悔しないご縁を大切にしていきましょう♪

2021年01月03日