凛マガジン(浮き出しで…)

●浮き貸しで出る難

●展示会場での着付け

●見せる商品、見せない商品

●自分の品物は、大切にする(怒)

●どこで出たか、わからない

●検品はしないの?

●直し方

●視覚はいい加減?

==============================

●浮き貸しで出る難

売場での見栄えを良くするため、展示する商品数を増やすために、メーカーさんや問屋さんから商品を借りて、売れたら売上金から仕入れ代金を支払うシステムを、「浮き貸し」と呼びます。 無料で貸してもらっているのですから、大切に扱って当然なのですが‥‥近年特に、借りる側のマナーや意識が低下しています。 丁寧に扱われていないことが、品物を見てわかる場合もあります。 まず、ダラダラと長期間、借りっぱなしになるケースが増えています。 もともと、取引先や仲間内で始まった援助策だったため、一点ごとに借用書や契約書を交わすことはありません。 商品の管理がおざなりになり、借りた品物なのに、傷みや難が出ることも、とても多くなっています。 残念なことですが、凛でお預かりする品物にも、浮き貸し中に発症したものは大変多いです。 中でも圧倒的に多い難が、2つあります。

==============================

●展示会場での着付け

浮き貸し中の難でいちばん多いのは、汗ジミです。 展示会場などの売場で、お客さまに品物を着付けた際にできたものです。 イベント会場にいらっしゃるお客さまは、出店しているお店の顧客でないことが多いです。顔見知りでもなければ、お付き合いがありません。 「今売らないと、買ってもらえるチャンスがない!」と、売り方が強引になるのかもしれません。 絵柄や顔映りがわかるよう、姿見の前で反物を胸元に当てる、という売り方は、昔からよくあります。 しかし、和服に詳しくないお客さまは、反物を当てても着姿がイメージできません。 そんなとき、仮絵羽の商品を着付けてあげると、完全に着た状態がわかり、喜ばれることがあります。 が、サービスも程度を越すと、強引になってしまいます。 あまり気乗りしないお客さまに、似合いますよ! と複数のマネキンさんが着付けをしたり、さらには帯までガッツリ締めて、完全に仕上げてしまいます。 欲しくなければ、断っても良いと思うのですが‥‥心理的に圧迫されるのでしょうか、勧められるままに購入されるケースも少なくないようです。 だから着付け作戦は、イベント会場ではよくあることなのです。 長時間脱がれへんかったんやなぁ~、暑かったんやろな~‥‥という状況が見えてくるような、広範囲の汗(汗ジミ)、帯を強く締めた跡‥‥。 症状を見て、現場での状況が想像できる品物もあります。

==============================

●見せる商品、見せない商品

きものに詳しくないお客さまほど、現場でのディスプレイを参考にされる方が多いです。 そのため、売場では衣桁(=いこう:和服用のハンガー)にかけたり、マネキン人形に着せたりして、着用した状態がわかるディスプレイを行っています。 で、2番目に多い、浮き貸し中の難なのですが‥‥「焼け」です。 ディスプレイした商品が、光によって褪色するのです。 衣桁に掛けた商品は、品物全体を見せてあるので、全体がまんべんなく焼けます(補正の難易度は、低い方です)。 一方、マネキン人形に着せると、光に当たるのは表に出ている部分だけです。脱がせると、内側に入った部分は色が濃く、焼けた部分と色が違ってきます。 焼け方は一点一点違うため、一概に言えませんが‥‥重症になると、地色を染め直した方が安く上がる場合があります。

==============================

●自分の品物は、大切にする(怒)

焼けは、酸素や光に触れる以上、避けられない変化です。なのである程度は、やむを得ないのですが‥‥。ここでまた、マナー違反というか‥‥腹立たしいウラ事情があります。 展示会で売る場合、自分の店の商品(=在庫)は、ディスプレイに使わない、というお店があったりするんです。 勘の鋭い方は、理由が判ったかもしれません‥‥。そう! 自分の店の商品は、焼きたくないのです(怒!) ディスプレイには、無料で貸してもらった商品の中から、見栄えするものを選び、売れたらラッキーだし、売れなくても返せばいい‥‥ さらに悪質なケースでは、店の商品を売るために、ディスプレイには借り物を使い、商品を見ているお客さまに、店の商品を勧めたりするそうです。 貸した方は、たまったものではありません。長期間無償で貸してあげた品物が、売れるどころか、焼けて返ってくるのですから‥‥。

==============================

●どこで出たか、わからない

焼け難の厄介なところは他にもありまして‥‥どこで発症したかわからない、ということです。 商品を貸したメーカーさんや問屋さんは、売場には居ないことが多いです。だから、どんな風に展示され、どんな風に扱われているか、わからないのです。 どんな経緯かわからないけど、返ってきたらこんなんなってる~!という泣きのご依頼は多いです。本当に気の毒だと思います。 また、売場で広げた商品を、畳んで売場の床(畳)の上に積むことがよくあります。 売場は大変バタバタしているし、毎日元通りに片づけるわけではありません。イベントの期間中、積まれっぱなしの商品はたくさんありますし、そのままトラックに積まれて次の現場へ行くことも多いです。 すると、畳んだ状態で焼けてしまいます。品物の重みで、焼けだけでなく、シワが型になったり、跡が付いたりすることもあります。

==============================

●検品はしないの?

焼けでもシミでも、返ってきたときにチェックすればいいんじゃないの? と思われる方もいらっしゃるでしょう。 ところが、展示会やイベントで動く商品点数は膨大です。百反・千反単位で往来するため、一点ずつ検品する時間も手間もないのが現状です。 返ってきた品物に難が出ていると気づかず、そのまま倉庫に入れられ、次に出した時に発覚することも多いです。 貸し出す時も同じような状況なので、逆パターンもあります。 イベント会場で、借りてきた品物を並べていたら‥‥あれ!シミが出てるやん!というパターンです(前回、どこかに貸し出された時に発症し、気づかずに保管されている)。

==============================

●直し方

シミや焼け、最終的には商品を貸してあげた所有者(メーカーさん、問屋さんなど)から凛に持ち込まれます。 補正するかどうか、ですが、重症になると補正コストの方が高くついてしまい、泣き寝入りされることもあります。 汗は、付いた時点では色が出ないため、湿っていても気づかないことが多いです。 汗が付いたことに気づかず、畳みっぱなし・積みっぱなしで長期間放置されると、変色して重症化してしまいますが、たいがいの場合はキレイになります。 焼けは、一点ずつ症状が異なり、差があります。前述したように、地色の染め直しからやらないといけないこともあります。

==============================

●視覚はいい加減?

最後にオマケの体験談で‥‥仮絵羽の商品で、ヒヤッとした補正事例があります。 仮絵羽が売れると、お仕立て前にキレイにするのですが‥‥ 溶きのし(仕立て前の、生地の整理工程)のために仮絵羽をほどくと、内側からとっても濃い色(焼けていない、元の色)が出てきたことがあります。 しかし、商品を買われたお客さまは、表に出ていた淡い色を気に入って購入されたはず。 元の色で再現してしまうと、イメージが全然違ってしまうんじゃないか?!と気になり、販売店さんに相談すると、「いや、元の色はこっち(=濃い色)だから、元の色でやって」と言われたのです。 大丈夫かなぁ~と思いつつ、元の濃い色に補正して納品したことが何度かあります。 ところが、元の色と違う!とクレームになったことは、ただの一度もありません。 「あれだけ違うのに、気づかんものやなぁ~」と思うのですが、色に関する人の記憶は意外とあいまいで、よほどのこだわりがなければ気づかないようです。

2023年01月31日