凛通信(着物が出来上がるまで)

●きものができあがるまで

●染めたら難が出た!

●生地か?染めか?

●ダンダン

●いろいろな

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●きものができあがるまで

皆さまがお店や展示会場でご覧になるきもの──反物や仮絵羽が多いと思いますが──大

半は、白生地から生産が始まります。 生産にはいくつもの専門工程があり、大きな声では言えませんが、そのすべての工程で、難の原因が生まれる可能性があります。 だから、どの工程で、どんなミスやトラブルがあって、どんな難になったか? これを見極めることが、補正の大原則となります。 ところが中には、「これ、どこで出た難?」と、見極めが難しいケースがあります。

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●染めたら難が出た!

連載の初回なので、わかりやすい事例で説明します。 生産工程の第一歩。問屋さんが、白生地屋さんから反物を仕入れました。 これを、染色(地染め、友禅)や金加工など、専門の職人さんたちに依頼して、デザイン通りに仕上げていくわけですが‥‥ 白生地の反物を地染めに出したら、染め上がりが均一じゃないぞ! ということがあります。 比較的多いのが、地色が無地なのに、ポツンと点状に色の濃い部分がある、などです。 僕らが見ればだいたいわかるのですが、この難が誰(どの業者)の責任か、トラブルになることがあるのです。

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●生地か?染めか?

このケースでは、まだ白生地の地染めしか行っていませんから、原因は生地を織る工程か、地色の染色、どちらかにあります。 ちなみに、前述の「点状にポツンと濃く染まっている」ケースは、白生地の織り工程に問題があったと考えられることが多いです。 白生地を織る際、糸や織り目に「節(ふし)」のようなものができた → 白生地の状態では目立たず、そのまま出荷された → 地染めをしたところ、節になった部分に染料が溜まり、点状に濃く染まってしまったという具合です。 難が見つかったのは地染めの後ですから、染め屋さんにクレームがいくことが多いです。「ここだけ濃く染まってるやないか!」みたいな感じですね。

しかし、染め屋さんは職業上、こうしたトラブルを把握しています。 「いやいや、これは染めじゃなくて、白生地に問題があるんや。節になってるのに、検品で見落とされてる。ウチは言われた通り、染めただけや!」となるわけです。 難の原因を作った業者(職人)さんが、直す費用を負担しなくてはならないので、ややこしくなるんですね(-_-)

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●ダンダン

このように、染める前の白生地は、凹凸や織り目のムラがあっても目立ちにくく、染めたあとで難が見つかることが多いです。 類似の例として、「段」と呼ばれる難があります。白生地は、昔は手織りでしたが、今は機械織りになり自動化されています。

機械織りとは言っても、工場には「織子(おりこ)さん」と呼ばれる職人さんが居て、機械がちゃんと動いているか管理しています。 手織りの場合、1台の織機を1人で操作しますが、今の織子さんは1人で複数の機械を見ています。 織機には縦糸がセットされていて、上下に動く縦糸の間を横糸が左右に動きながら生地を織り上げていきます。この仕組みは、手織りも自動織機も同じです。 織っている途中で横糸がなくなったり、切れたりすることがあります。 自動織機は、横糸がなくなると自動検知して停止します。このとき、すぐに横糸を補充すれば問題ないのですが、織物工場には大量の織機があって、ものすごい大音量で動いています。

しかも織子さんは複数の機械を見ているので、1台が停まっても気づかないことがあります。 機械が停止している間、縦糸の上下作動も停まっています。その時、縦糸にかかるテンションが変わってしまい、停止した位置でギューっと圧力がかかることがあります。 この「圧」の違いを見過ごして織り続けてしまうと、機械が停止した位置だけ織目の調子が変わり、段々になります。 そして、段々もまた、染めてみるまでわからないことが多いのです(-_-)

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●いろいろな

ダンダン 糸目のムラや段々の原因が、すべて生地の織り工程であれば、わかりやすくていいのですが‥‥ 実は生地難以外にも、段になる症状はあるのです。

1.織り上がった白生地を丸巻きにする前、一時的に折り畳むことが多いのですが、このときに「ゆるい畳みジワ」ができてしまい、染めた時にムラが出たり、

2.(1.に近いですが)「湯のし」の上がった品物を、一時的に平畳みした際、畳みジワや折れジワができたことに気づかず、染めた時に表面化したり、

3.染色後の「蒸し」で、生地を吊るす「竿」の汚れなどによって染めムラのような症状が出たり‥‥

と、実際はいろんな原因があるのです。 各工程の職人さんたちは、症状の半分ぐらいは見極められると思いますが、それでも症状が微妙すぎて、どこに原因があるのか難しいケースもあります。 染めムラの補正ができない場合、いったん染料を全部抜いてから、もう一度染め直さなくてはなりません。原因となった工程の業者さん(職人さん)が、その費用を負担することになるので、工程間でモメやすくなります。

僕らは生産に関わってないのに、原因の調査だけを頼まれることもあります。「目利き」を評価してくれるのはありがたいのですが、正直、イヤな仕事です。 今回は白生地、つまり新しく作られるきものについて書いてみましたが、これが古着になるともっと複雑になります。

2019年11月02日