凛マガジン(染の知恵)
●お天気と呉服づくり
●染めと乾燥
●染めの知恵――「枠場」の工夫
●伏せ糊
●悉皆屋さんの苦悩
===================================================== ●お天気と呉服づくり
機械が導入されるようになってからはずいぶん変わりましたが、もともと呉服の工程はすべてが手作業。
テレビなどで見かける、友禅を川で洗う作業は雨が降ってはできませんし、洗ったあとの乾燥も天然の風だけです。
作業に適したお天気でないと、仕事ができなくなります。 今は、きもののグレードや価格帯が多様化していて、伝統的な手法から機械での量産まで幅広くなっています。
伝統的な手法は量産品よりも時間がかかるし、お値段も高くなってしまいます。素材や技術に対するコストもありますが、無事完成するまでにかかる手間が膨大だからです。
生産工程が一般の方の目に触れる機会はありませんが、職人さんや悉皆屋(しっかいや)さんは、天候の影響を受けないようにいろいろと工夫しています。 まさか!と思うものもあって面白いので、ご紹介したいと思います。
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●染めと乾燥
呉服にはいろーんな工程がありますが、お天気との関わりで最初に思い浮かぶのは「染め」です。
友禅ものなどの「引き染め」(ピンと張った生地の上に、職人さんが染めていく手法)は、空気の状態が染め上がりに関わってきます。
特に、気温と湿気には注意が必要だと思います。筆やハケを使うので、いかんせん描き始めと終わりでは「時差」が出ます。 仮に、ものすごい高温の部屋で引き染めをしたらどうなるか‥‥?
生地に浸透した染料は、気温が高いとすぐに水分が気化し、乾燥が始まります。しかし、あっちの方では、まだ職人さんが作業中(>_<)染めの途中なのに、一方では乾燥が始まっている――こういう状態では、仕上がりもムラムラになってしまうのです(T_T)
伝統的な染めは、職人さんの自宅兼作業場、日本家屋特有の土間のような場所で行われることが多いです(数は減っていますが、この方法で仕事をされている職人さんは現在もいらっしゃいます)。
昔は、今のように正確な室温管理ができなかったので、職人さんが文字通り「空気を読み」(笑)、地面に水を撒くなどの調整をしていたようです。
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●染めの知恵――「枠場」の工夫
呉服の生産現場で、「枠場(わくば)」という設備を見かけることがあります。昔から使われている「手動機械」なのですが、よく考えられています。
まず、反物の両端をつなぎます。するとキャタピラのように輪っかになりますよね。これを枠場にセットすると、ベルトコンベアのように生地を送りながら作業ができるのです。 いろんな工程で使われていますが、染めの場合、ひとつの区画を染め終わって次に移る時に便利です。
さらに、染め終わった反物の乾燥を早めるため、枠場の近くに乾燥機(電熱器のようなもの)が置かれることがあります。
染め終わってしばらくした頃に、乾燥機の近くに染めた部分が回ってくるよう考えられています。
乾燥時間を短縮しながら、染めムラを防ぐ工夫がされています。 今は生産~流通のスピードが根本的に変わってしまったので、お天気が悪いから納期がズレる」という理由は通りませんが‥‥昔から、生産効率を上げようとする工夫はあったわけですね。
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●伏せ糊
染めの次にお天気の影響を受けやすいかなぁ~と思ったのが、「伏せ」の作業です。
「伏せ」は、繊維に染料が入らないよう、染める前に生地の一部をマスキングしておく作業です。
現在は、ゴムや樹脂などの扱いやすい素材が増えていますが、昔は、伏せと言えばデンプン糊でした。 デンプンは水で落ちますが、ゴムや樹脂は水に溶けません。ゴムや樹脂が呉服の伏せとして広まったのは、揮発剤が登場してからなので(おそらく昭和の初期か、それ以降)きものの長い歴史で見てみると、ごく最近のことになります。
デンプン糊の性質は、ごはんと同じです。 湿気が多いと粘りが増してしっかり吸着しますが、気温が高すぎると伸びが悪く、硬くなって剥がれやすくなります。パリパリになってヒビが入ることもあります(>_<)
「伏せ」にヒビが入ると、致命的なことになります。ヒビの間から、入ってはいけない染料が入ってきますから
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●悉皆屋さんの苦悩
お天気の影響を受ける作業は、実際にはもっといろいろあります。ここで紹介しているのは、ごく一例です。 お天気に神経質になるのは職人さんだけではありません
何度が出てきていますが、生産から商品の完成までを取り仕切る「悉皆屋さん」。
もしかすると、いちばん大変かもしれません。 なぜなら、各職人さんの所に出入りして商品の受け渡しをするのは、悉皆屋さんだからです。