凛通信(シミ取り)

●直接のお声がベストです

●自己処理ナンバー・ワンは‥‥

●3つの落とし穴

●シミは消えたのに‥‥

●プロの手法

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●直接のお声がベストです 悉皆屋さんたちから、特に多い「急患」の要請は‥‥「凛さん、助けて~。お客さんが、自分でいじってしまわはってん(=自己処理してしまわれた)!」です。 このとき重要なのは、間に入ってくれる悉皆屋さんたちのコミュニケーション力と傾聴力です。自分の憶測は排除し、ひたすらお客さまの言うことを丁寧に聞けるのが理想です(中には、直接話を聞いていても、エエ加減なことをおっしゃる方もありますが(笑)‥‥最終的にはお人柄ですネ)。

地直し屋に必要なのは、包み隠さない自己処理の詳細です。どれだけメチャクチャだとしても、どんな風に、何をしたか、その過程を知ることが、的確な補正を行う手助けになります。

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●自己処理ナンバー・ワンは‥‥

市販のシミ抜き剤、自己処理案件でいちばん多いトラブルは、摩擦によるダメージです。 シミ抜き剤や、少し年配の方だとベンジン(ドライクリーニングでも使われている揮発溶剤です)で、シミや汚れを落とそうとされる方がいらっしゃいます。 ベンジンとシミ取り剤は、成分や使い方が少し違います。 昔ながらのベンジンの使い方は、衣類の下に白布を敷いて、ベンジンを染み込ませた白布で、かるーーく撫でます(ゴシゴシはダメですが、そーろっと表面を撫でるような使い方が多いです)。 これにより、汚れ成分は下に敷いた布に移ります。わずかに残った汚れも、ベンジンによって広がり、薄められます。たとえると、超~薄い、ボカシのような感じです。 完全に汚れが取り除かれたわけではないのですが、非常に薄くなっているので、ほとんど見えなくなるのです。

トラブルになる自己処理の失敗は、落とす作業をしているうちに、つい夢中になって起こることが多いです。 シミ抜き剤やベンジンでトントンと叩いた瞬間、劇的に変化があるように見えることがあるんです。 すると、作業している人は‥‥「すごーい!メッチャ落ちていく!!よーし、もうちょっとガンバったら全部消えるわ!」と、つい力が入ってしまうのです。

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●3つの落とし穴

なぜ、ダメだとわかっているのに摩擦が起きてしまうのでしょうか。これには、3つの落とし穴があります。 1つは、処理を始めた直後に、薬剤による変化が大きいこと。液を付けた瞬間、「スゴく効いてる」感じがするわけです。 2つめは、人間の心理的なことです。効果が目に見えると、嬉しくなって、張り切って&欲も出て(笑)、「もっと!もっと!」とエスカレートしがちです。それでつい、力が入ってしまいます。 ここで3つ目の落とし穴。 液剤は水ではなく化学成分ですが、繊維は濡れています。湿った繊維に強い力が加わると、どうなるかわかりますか? はい、摩擦に弱くなり、繊維が擦れたり切れたりしやすくなります。 さらに悪いことに、濡れていると、擦れが起こっていても見えません。だから「やり過ぎた!」と止めることもできず、作業を続けてしまうのです。

すべてが明らかになるのは、作業を終え、液剤が乾いた後です(泣)。 熱心にこすった部分が白くなっていたり、表面が毛羽立っていたり‥‥または、角度を変えるとこすった部分が真っ白に見えたりします。 こうなると、もう補正はできません。 できることがあるとするなら、毛羽立った繊維を寝かせるような処理をして、白っぽさを隠すために少し色を足したりするのが限界になります(でもこれは、根本的に直ったわけではありません。あくまでも急場しのぎです)。

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●シミは消えたのに‥‥

メルマガでも頻繁に、自己処理は危険だとお伝えしていますが、こういう事態を何度も見てきているからです。 前回、キセちゃんがワイシャツにシミ抜き剤を使ったと書きましたが、よく説明書きを読むと、ちゃんと「こすらないでください。強い力をかけないでください」と書いてあるんですよ。 ただ、作業をしていてシミが落ちてくると、注意書きはいつの間にか、頭から消えてしまうものなのです‥‥。 もう1つ多いのが、「後追い輪ジミ」です。 シミの患部に液剤を使うと、液の中に汚れが溶け出します。ごくわずかですが、汚れの混ざった液剤が、患部の外側に少しずつ広がっていきます。 溶液に混ざった不純物(汚れなど)は、外側に集まる性質があります。つまり、液で濡れている「輪郭」ほど、汚れ成分が多いのです。こちらも、生地が濡れているとわかりません。こちらも乾いて初めて、「アレ?!シミはなくなったのに、周りに輪っかができてる!」となるわけです。

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●プロの手法

では、どうやっているかと言うと‥‥ 輪ジミに限らず、リスクの少ない方法から試すのが鉄則です。まず、潤滑油のような役割があり、繊維を傷めない揮発溶剤から。落ちなかったら、薬剤の強さを変えたり、調合したり、それでも反応が弱かったら、最後に水──という感じです。 で、輪ジミに関して言うと、外側に汚れや不純物が溜まることはわかっていることです。なので、シミや汚れを落とすと同時に、輪ジミにならないような処理もしていきます。だから乾いた時、シミも輪ジミもありません。

具体的には、たとえ1センチほどのシミであっても、シミ落としに入る前、患部の周囲10センチほどに、輪ジミ防止の下処理をします。そして、シミ落としが終わったら、下処理した範囲をさらに広げ、患部を中心に直径15センチほどの範囲で仕上げ処理をします。 作業しているところをご覧になったら、「アレならできるかも!」と思われるかもしれませんが、実際にはマネできないだろうと思います(笑)。

2019年10月01日