凛マガジン(生地難)

●「生地難」て何?!

●糸づくりと生地織り

●製糸工程

●見た目ではわからない

●お蚕さんの

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●「生地難」て何?!

生地難を取り上げようと思ったのには、3つ背景があります。
まず1つ目。生地難と呼ばれても、「これも生地難になるのん?!」と考え込んでしまうようなご相談が、かなりの頻度でやってくること。 2つ目。そもそも生地難は、一般消費者さまの目に触れる機会がなく、知られざる事実(!)として、お伝えしたいな~と思ったこと。 生地難は文字通り、生地を織る工程、またはその後処理で生じるもので、補正されたものが商品になります。生地難が出ても、出荷時にはキレイに補正されているのです。 つまり、店頭に並んでいる反物を見て、生地難がキレイに補正された商品だということはわからないのです。 ※もし、生地難が消費者さまの目に留まることがあるとすれば‥‥難が見過ごされたまま製品化→販売され、売れてから発覚した、というレアケースになるでしょう‥‥。 そして3つ目。生地難の症状や原因となる要素が、実に多種多様であることです。過去にも何度か、生地難に関連するネタをお届けしたことがあるのですが、今回はもっと包括的に、原因や症状について詳しく解説したいと思います。なので、連載になります!(笑)

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●糸づくりと生地織り

きものづくりは、生地が織られる前、製糸工程からスタートします。この製糸の段階で、生地難の原因になるトラブルがあり、生地が織り上がってから発覚することがよくあります。 製糸段階のトラブルにもいくつか種類がありますが‥‥ざっくり言うと、形状の問題(節が目立つ、太さが不揃いなど)と、混入物に分けられると思います。 これらは、織工程で生じることもありますが、製糸工程で生じるものについて解説します。

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●製糸工程

製糸工程で生じたトラブルが、生地が織り上がった後に見つかることはよくあります。中でも多いのは、混入物だと思います。 ウソみたいですが、頻繁にあるのが、髪の毛の混入です(!)地直し職人的には、とても奥深い症状です。同じ髪の毛でも、太さや質、取り除くときの難易度が、全然違うからです。 ご存じの通り、生糸はお蚕さんから採られます。繭をお湯の中に入れて、細~い蚕糸を数本束ねたものが、1本の生糸になるのですが‥‥この作業中に、髪の毛が入ってしまうことがあります。 糸の種類にもよりますが、多くの場合、束ねた生糸は撚りがかかっています。すると、混入している髪の毛が、らせん階段のようにクルクルと絡まっています。

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●見た目ではわからない

混入した髪の毛は、丁寧にピンセットで取り除くのですが‥‥本当に人によって髪質が全然違っていて、予測が完全に当たることはありません。 しっかりとした黒髪で、すぐに取れるかと思いきや、つまんだ瞬間に切れてしまったり、細くて柔らかそうでも、スルスル~~ッ!と、気持ちよく抜けてくれることもあります。 職人さんには、男性も女性も居ます。年齢は‥‥高齢化が進んでいる仕事なので、高めの方が多いとは思います。が、それにしても髪質は千差万別です。 修業時代に親方連中の仕事をたくさん見てきましたが、毛髪除去は、ベテランの職人さんでも予測が当たっていませんでした。 見た目と難易度の因果関係がわからず、「これは年寄りやな。年取ったら、髪もパサパサになってすぐ切れるんやな!」なんて冗談を飛ばしていたものです。パーマやヘアカラーをされていて、ダメージで毛質がもろくなってるのかな?と思うこともあります。 ピンセットは、先端が超~細くなった、特殊なものを使っています。ドイツ製で、結構イイお値段でした。おそらく、医療用だと思います。 混入した髪の毛をつまんで引っ張るのですが、先述したように撚りがかかった糸だと、簡単に抜けないことが多いです。そういう時は、ピンセットの先端を使って、絡みついた毛髪を分断します。これで少し抜けやすくなります。それでも難しい場合は、薬品と超音波洗浄機を使って、粉砕された毛髪を叩き出します。

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●お蚕さんの‥‥

もうひとつ混入物で多いのは、繭の残骸です。お湯の中でほぐされた繭ですが、もとはお蚕さんのお家です。汚れやフンが混ざっていることがあります。 糸の最初や最後の部分は汚れが多いので、束ねる前に除外するのですが、それでも入り込むことがあります。 本当に小さな点にしか見えないので、本当に繭の汚れかどうかわからないこともありますが‥‥ピンセットで取り除きます。

2021年08月31日