凛マガジン(何度もきれいに)

●何度もキレイにしています

●白生地で

●染め物

●オプション加工、仕立て前

●仮絵羽が売れたら

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●何度もキレイにしています

白生地が織り上がってから、染色をはじめ様々な工程を経て反物になるまで、きものの生産には多くの工程があります。 特殊な器具を使う作業も多く、加工が終わった直後は、生地に器具の凹凸が残っていることがあったりします。 また、次の加工に移るとき、キチっと織目を整えておかないと、完成した時に不具合が生じることがあります。 具体的には、織目が整っていない生地に絵柄を入れると、完成品で絵柄が歪んだりズレたりする可能性があるわけです。 こういった状態にならないよう、何度も行う処理があります。それが、今日のテーマ、「湯のし」です。 「湯」という文字から想像がつくように、湯のしは、反物に高温の蒸気を当てて行います。お湯に浸けるわけではないですが、役割としては、生地のお風呂のようなものです。 湯のしをした生地はキレイになって、組織が整っています。なので、湯のしを専門に行う職種を、業界では「整理屋さん」と呼んでいます。 湯のしには、いくつか種類がありますが、共通した特徴は、 ・生地の組織を整える・生地巾を揃える・生地の風合いを整える・クセやシワを取る などです。 加工の種類や多さにもよりますが、完成までには最低でも3回、生地はお風呂に入ります。

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●白生地で

ここからは、湯のしの種類について解説していきましょう。 最初の湯のしは、白生地が完成した時です。 生地を織るとき、糸には糊が付いていて、完成時の白生地は、糊の影響でパリッパリになっています。 織り上がった生地は、「製錬所(せいれんじょ)」という場所に送られ、精錬という加工を行います。特殊な溶液で、生糸に含まれる「セリシン」という成分や、糸についた糊、汚れを落とします。 そして、精錬後の生地を乾燥させてから行うのが、最初の湯のしです。加工工程に入る前の湯のしなので、業界では「下のし」と呼ばれたりします。下のしをした生地は、次工程(多くは染色)へと移っていきます。

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●染め物

いわゆる「染めもん」と呼ばれる、友禅などで絵柄が入る品物は、湯のしをきちんとしておかないと、絵柄が入ってから「柄がズレてる!」「歪んでる!」などのトラブルになりかねません。 絵柄が入る前の「墨打ち」という工程で、絵柄の入る位置に「アタリ」を付けますが、組織が整ってなければ墨打ち通りに絵柄を入れても、完成時に歪んでしまうかもしれません。 ちなみに、染色工程が終わった後にも、湯のしを通ります。こちらは「上げのし」(仕上げに行う湯のし)と呼ばれています。 色無地や小紋なら絵柄のズレはありませんが、だからと言って湯のしを省略して大丈夫!というわけではありません。 湯のしがおろそかだったために、生地巾が不均一になったり、一反の長さが著しく変わってしまったり、身頃のサイズが左右で違ったり‥‥となる可能性があります。

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●オプション加工、仕立て前 絵柄が入ったあと、刺繍を入れる品物があります。刺繍をする際は、生地をピンと張るために、枠を使います。 刺繍が終わって枠を外すと、枠の型が付いています。このように、生地に付いたクセを取る時にも、湯のしが必要になります。 家紋を入れる品物も、紋入れの前に湯のしを通します。紋は、お家を象徴する大切なシンボル。生地目を整えた状態で入れないと、完成時に紋が歪んだりズレたりすることがあるからです。 反物が売れて、お仕立てに入る前にも、必ず湯のしを行います。生地の目が整っていない状態で仕立ててしまうと、やはり完成時に不具合が生じる原因になります。 このように、きものは完成までに何度も、湯のしを通ります。工程の度に湯のしをすることで、生地の組織を「リセット」しているわけです。

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●仮絵羽が売れたら

店頭などで、反物をきものの形状に仕立てた「仮絵羽」の展示がありますよね。 仮絵羽は、着用したときの柄の出方がわかるので、仮絵羽を気に入って購入されるお客さまは多いです。 で、売れた仮絵羽は、いったん仕立てがほどかれ、「丸巻き(反物の状態)」に戻すのですが、このときも湯のしは必須です。 仮絵羽仕立てでは、かなりシッカリした折り目やクセが付いてしまいます。それをいったん、全部取ってキレイにしてから、仕立てに入る、というわけです。

2022年06月30日