凛マガジン(湿気が原因)

●湿気が原因で

●濡れてないのに?

●表と裏

●直し方

●この季節の注意事項

●防ぐには

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●湿気が原因で

カビ以外で多い、湿気の影響は、ズバリ「縮み」です。毎年、この季節になると増える案件です。 まず最初にお断りしておきますが、縮みは、品物によって非常に差があります。 今日は極端な例をご紹介しますが、すべての品物に同じ症状が出るわけではありませんので、その点、ご承知おきください。 さて、縮みと言えば、外せないのが縮緬(ちりめん)─中でも「古代縮緬」や「鬼シボ」でしょう。 糸の撚りの強さと織り方の特徴によって、縮むと、生地巾が半分以下(!)になってしまいます。 今年に入ってからも、すでに数件、縮緬の縮み難をお預かりしています。

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●濡れてないのに?

湿気の多い季節に多いのが「雨の日に着てないのに、縮んでる!」というご相談です。 前述の強撚糸の品物は特に、室内で着用しただけなのに、湿気で縮むことがあるのです。全体に縮んでいるので、パッと見てもわかりにくいです。 袷だと、表生地だけが縮んで、裏地(=八掛)はそのままです。なので、八掛が裾からチラリと見えたり、伸びたように見えることがあります。 「裏地が伸びてきたから、直して欲しい」というご依頼もあります(実際は、表が縮んでいるのですが)。 実は縮みは、着用中だけでなく、仕立てる前・売れる前にも起こるんです。 売れる前のきもの(=反物)と、それに合わせる八掛をセットにして、二枚重ねでクルクルと巻いておくことがあります。 「このきものに、この八掛を付けると素敵ですよ!」と、色合わせを見てもらうために、重ねて巻いた状態で店頭に展示されることもあります。 ところが、表生地が縮緬で、八掛が縮まない素材だと、重ねて巻いた状態でも、表生地だけ縮むことがあります。 巻いてありますから、湿気に触れやすい外側は縮みがひどく、芯に近い部分は影響を受けません。 業界では、このような状態を「出ベソ」と呼んでいます(笑)。巻いた状態で、中心が出っ張っているからです。 こういう別名があるということは、メチャクチャ珍しい症状ではない、ということなんです‥‥。

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●表と裏

「表生地だけが縮む」という難は、縮緬類ではよくあるのですが、これが部分的に発生することがあります。 多いのは‥‥ 湿気の多い日に、地面から湿気をもらって、足元近くだけが縮む、雨は上がっていたけど、水たまりや泥はねで、後身頃の腰から下だけが縮む‥‥ などです。 こちらも、袷の場合、表生地だけに影響が出て、しかも部分的な縮みなので、後身頃の中央部分だけが引っ張られたような感じになります。

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●直し方

縮んでしまった品物は、ザックリ言うと「加熱と引っ張り」で直します。やり方は複数ありますが、引っ張りながらコテを当てる、というのが主流かと思います。 ただしこれには、一筋縄では行かない事情がありまして‥‥ コテを当てながら引っ張って、元の寸法まで伸ばせた、としても‥‥繊維の形状記憶性質で、ある程度はまた、戻って(=縮んで)しまうんです。 なので、「戻りを想定して、多めに伸ばす」ことが必要になります。 手前みそですが、これは経験と感覚がモノを言う作業です。品物の織り方や特性によって、戻ろうとする力や程度が異なります。それを見込んで、引っ張り加減やコテの当て方を調整しています。 ちなみにですが、完全に直したければ、仕立てをほどいて補正した方が良いと思います。 仕立てをほどかなくても改善はできますが、縮みが仕立ての内側にも出ている場合は、ほどかずに直すのは厳しいです。

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●この季節の注意事項

このメルマガで、たびたび陰干しを推奨しています。が、この季節に限っては注意が必要です。 縮みやすい品物は、とにかく湿気を吸うと顕著に縮みます。湿気の多い季節には、着用どころか、タンスから出さない方がいい、という場合もあります。 もし出されるなら、カラッと晴れた、湿度の少ない日に限ります。※あくまでも「縮みやすい品物」のお話です。 昔から、和服には桐たんすが良いと言われます。これは桐が、湿気を含んで膨張し、タンスの密封性を高めてくれるからです。 僕ら地直し職人の仕事にも、湿気は影響します。 たとえば、コテを使う前に霧を吹くことがあるのですが、湿気が多い季節は、霧吹きが要らなかったりします。 また、水に濡らす加工の場合、作業が終わって干しても乾きが遅く、朝干したのに夕方になっても「まだ湿気てるやん!」で、次の工程に進めないこともあります。

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●防ぐには

縮みを軽減するために、作り手も工夫しています。 訪問着などで「共八掛(ともはっかけ)」と言って、表地と八掛を同じ素材で揃えた商品が出ています。これだと、仮に縮んでも、縮む程度が同じなので目立ちにくく、補正もしやすいのです。 とは言え、共八掛が付けられるのは、ごく一部の品物です。だいたいは、八掛は別の生地で作られていますので、縮み対策が必要です。※再度申し上げますが、「縮みやすい品物」の場合です。 余談ですが、逆パターンで「八掛だけが縮む」ということもあります。 八掛の縮みは、表生地が内側から引っ張られ、裾がフワーンと浮いたように見えます。 過去の湿気関係の話題でもご紹介していますが、縮みを防ぐには、ガード加工がいちばんお薦めです。 特に、今からお仕立てのご予定がある方は、仕立てる前にガード加工をしておかれると良いと思います。

2021年06月28日