凛マガジン(シミ取り・ケア)
●この季節らしく‥
●代表的な汚れ
●溶解と振動
●水は凶器?!
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●この季節らしく‥‥
家電の技術も進歩しています。先日テレビを見ていたら、タンスのような形をしたボックスに衣類を吊るし、振動で花粉を落としたり、スチームが出てシワを伸ばせる、新しいタイプの衣類ケア家電が出たようです。 掃除や汚れ落としで重要なのは
1.汚れの原因や成分を特定すること
2.その成分が、何で溶解するのかを特定することです。 換気扇やレンジ周りの汚れが落ちにくいのは、汚れが付いてから時間が経ったり、ホコリやチリが混ざったり、コンロの熱によって、汚れの成分が変化しているからだと思います。
理論上は、変質した成分を溶解させることができれば、ガンコ汚れでも落ちるはずです。 呉服補正の「シミ抜き」「汚れ落とし」も、理屈は全く同じです。僕らが念入りに検品やテストを行うのは、適切な薬品類や補正方法を決めるためです。 では、代表的な汚れには、どういったものがあるのでしょうか。
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●代表的な汚れ
汚れの特定は、まず大きく2つに分けられます。ひとつは、水溶性・油溶性などの、成分的なもの。もうひとつは、どのような汚れ方をしているか?
という状況です。 実際には、複合的なものが多いので、単純ではありませんが‥‥ 成分と汚れ方(状況)が正確にわかれば、補正の手段が決まってきます。
【食事の汚れ】新年会・歓迎会の季節に多くなるのが、日本酒やお料理のダシによる汚れです。ダシやスープは、タンパク質や油脂(植物性、動物性)が含まれていて、水も使われています。熱々のスープなら、熱による影響もあるかもしれません。
最近は鍋ブームで、スンドゥブ、トマト、豆乳‥‥とバリエーションが増えていますから、補正をするには、がっつりブームに乗って行かなければなりません(笑)。
【ガム!】ガムが付着した(T_T) という事例もあります。ガムが取れても、粘着成分が残っていることが多いです。取れないガム(もしくは粘着成分)は、揮発溶剤で落としていきます。手で取れそうでも、無理に剥がすのはNGです。
【泥】
泥はねは、見た目が衝撃的なので致命傷に思われがちですが、それほど繊維の中には入っていないことが多いです。
表面にペースト状の泥汚れが付着し、水分は繊維の中まで浸透しています。ただし、泥を落とそうとこすったりすると、二次被害(摩耗、スレ)につながることがあるのでご法度です。
余談ですが‥‥「泥染め」という染色技法がありますね。同じ泥なのに、なぜ落ちにくいのでしょうか。‥‥
それは、泥の粒子が、非常に細かいからです。 多くの泥汚れは粒子が大きいため、ザルでこしたように繊維の表面に留まっています。
泥染めの泥は、粒子も繊維の内部に入るため、落ちにくい=染料として定着しやすい のです。 ただし、超音波洗浄機など、無理に叩き出そうとすれば、多少は落ちてしまうと思います。
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●溶解と振動
さて、汚れを落とす方法ですが‥‥ 水または揮発溶剤などで、汚れを溶かし出す方法の他に、振動を与えて、繊維の内部の不純物を叩き出す というアプローチも有効です。
非常に微細な汚れの粒子や色素は、洗うだけでは完全に落ちませんが、超音波洗浄機を使うことで改善されるようになります。 超音波洗浄機は、単体ではなく、液体と組み合わせて使います。
洗浄したいものを液体に浸して超音波を当てると、液体に微細な振動が伝わって効果を発揮します。 超音波での補正には、注意が必要な点があります。超音波に限らず、呉服の補正にはよくあることですが‥‥
部分的に処理をすると、患部はキレイになるのですが、周囲との差が目立ってしまうことがあります。 よく似た例で説明すると、どんなきものも、日光や照明器具に当たると、焼け(褪色)が起こります。
着用すれば、少なからず紫外線に当たって褪色しますが、わずかな量で、全体に・均一に起こりますので、褪色には気づきません。 ところが、照明器具や展示方法、保管状況などの影響で、一部だけに紫外線が当たってしまうことがあります。すると突如、焼けた部分だけが目立つようになります。
これに似た現象で、部分的な補正では、補正が終わっても、患部と周辺との差が目立つことがあるのです。 難が直っていないのではありません。ただ、全体を見ると、補正した部分が、少し浮いた感じがします。なので、補正部分と周辺との境界がわからないよう、ぼかすなどの処理が必要となります。
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●水は凶器?!
最近は、家庭用の超音波クリーナーも発売されているようです。
「洗濯で落ちないシミ汚れも、スッキリ落ちる!」と、テレビ番組で紹介されているのを見たことがあります。 白いワイシャツに、ケチャップや黒いインクで汚れを付けます。
水や洗剤だけでは落ちないのですが、超音波クリーナーを使うと、みるみる汚れが取れていくのがわかります。(ショッピング番組ということもあり)スタジオのお客さんは、拍手喝采で絶賛していました。
なのですが‥‥僕らが見ると「これ、アカンやん!」と思うポイントがあるのです。
確かに、汚れはキレイに落ちていました。ヤラセやサクラは、なかったと思います。
実は‥‥このケースのように、超音波洗浄機で水を使うと、繊維が「傷になる」のです。ミクロの世界なので、肉眼ではわかりません。
手を洗ったりシャワーを浴びたりして、「水が鋭い!」と感じることはありませんよね。 ですが‥‥ミクロの世界で観察すると、水の分子は揮発溶剤に比べて大きく、モノを傷つけやすい傾向があるのです
もうひとつ、大切なことは‥‥水による摩擦や傷は、繊維が濡れていると目立たない ということです。
白いワイシャツのデモンストレーションは、濡れたままで汚れ落ちを確認していましたが‥‥もしシャツを乾かしていたら、肉眼でも繊維の毛羽立ちが判ったのではないかと思います。
濃い色の品物になると、毛羽立ちや「スレ」は、さらに目立ちやすくなります。超音波クリーナーをお使いの方や、購入を検討されている方は、まず使用前に目立たない部分でテストをして、さらにはテストした部分が完全に乾いた状態で、どのような変化があるか確認されることをおすすめします