凛マガジン(シミについて勘違い…こんなはずでは

� シミについて勘違いーこんなはずでは…

●全体に鳥が飛んでいる柄

●全体に柄のある品物

品物による補正の違

●金加工かどうか?

●金じゃなくて、良かった


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●全体に鳥が飛んでいる柄 最初にご紹介する事例は、現物を見る前に、口頭できものについて聞いていました。「全体に鳥が飛んでいる柄のきものに、カビが出たので取って欲しい」というご要望でした。 「全体に鳥が飛んだ柄」というお話から、小紋だと推測していました。が‥‥現物が届いて見てみると‥‥全体に鳥が飛んではいましたが‥‥小紋ではありませんでした。

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●全体に柄のある品物

全体に絵柄のあるきもので、流通数が多く、人気も高いのが小紋です。が、「全体に絵柄を出す」表現手法は、小紋だけではありません。

このご相談の品は、小紋ではなく「絣(かすり)」という品物でした。絣とは、白生地の製造工程で、先染めした糸を織り込んで文様を表現した織物です。

一方で小紋は、織り上がった白生地に、染料で柄を描きます。外見上は似ていますが、構造、手法はまったく違います。同じ難が出ても、対処法や難易度は違ってきます。

カビの事例で、小紋と絣の対応の違いを説明しましょう。

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●品物による補正の違い

まず、カビや汚れ、アクの難は、薬剤で処理するのが一般的です。

難がひどい場合、揮発溶剤の溶解度を上げて対応します。

1.小紋の場合小紋の絵柄(または絵柄の近く)に薬剤を使うと、染料が反応してしまい、色が飛んでしまいます。

汚れ・カビ落としを優先する場合は、絵柄の色飛びを承知の上で薬剤を使い、あとから絵柄の色を再補正します。

2.絣の場合絣は、生地を織るときに先染めの糸を使うことで絵柄を表現した織物です。

厳密には、縦糸は白で、先染め糸が使われるのは横糸だけです。絣の文様部分に強い薬剤を使うと、横糸の色が飛んで、織り文様が消えてしまいます。染料で描柄されているわけではないので、小紋のように補正することはできません。 この鳥柄のきものも、絣でしたから、本来なら補正は無理です。

持ち主さまにご説明したところ、おまかせするので、とにかくやってみて欲しいというご要望がありました。 カビが出ていた場所が、上前の肩に近い部分で目立ちにくかったこともあり、(本来的な手法ではありませんが)染料で補正できるのではないか?と考えました。

結果的には、染料で部分補正したところは近くに寄って見ない限りわからなくなり、ご満足いただけました。ただし、このお客さまが何度もご依頼をいただいているリピーターさんだったこと、おまかせすると言ってくださったからこそできた補正です。

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●金加工かどうか?

似た事例を、もうひとつご紹介します。

こちらは、先ほどよりももっと見極めが難しい案件でした。

「金刺繍が入ったきものにカビが出たけど、キレイになるかな?」というご相談がありました。 金加工は、薬剤で処理すると変色したり、金が落ちたりするので、補正の難易度が上がるのですが‥‥現物を見てみると‥‥金刺繍に見えたのは、「縫い取り」という手法でした。

刺繍と縫い取りを、外見で判断できる人は、とても少ないと思います。お客さまだけでなく、呉服関係者でも見分けられない人はたくさん居ます。 両者は、生産工程から違います。

1.刺繍:白生地に、染色を施した後、金糸で刺繍をする

2.縫い取り:白生地に、染料が浸透しない「防染糸(ぼうせんし)」と呼ばれる糸で刺繍を行い、そのあと染色工程を通る 防染糸には、あらかじめ色が付いています。

染料が入らないので、染色後も糸の色がそのまま出ます。染色工程を通った後の外見は、刺繍のように見えます。

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●金じゃなくて、良かった

結果的にこの案件は、金刺繍ではなく、縫い取りでラッキーでした。

金刺繍の場合、金糸がシミ落としの薬剤に反応してしまうので、補正前に刺繍部分をゴムや樹脂で伏せて、薬剤が刺繍に接触しないようにします。

しかし、縫い取りでは伏せを行う必要がありません。刺繍に比べると難易度は低く、時間やコストも少なく補正することができました。 刺繍で伏せてから補正をする場合、手間のかかる高価な補正になってしまいます。

なぜかと言うと‥‥ 刺繍は、生地の表と裏、両面に出ていますよね。ですので伏せも、表と裏、両方に行う必要があります。これだけで単純に、手間・時間・コストは2倍になってしまいます。

ちなみにですが‥‥このケースでは縫い取りでラッキーでしたが、逆のパターンもあります。 刺繍の商品に難が出た場合、手間はかかりますが、根本的な処置ができます。いったん漂白してカビや変色を取り、色の落ちた部分を再染色することも(大変ですが)可能です。

逆に縫い取りの場合、洗って落ちるレベルならキレイになりますが、刺繍のような「踏み込んだ補正」はできないのです‥‥。

このように、見た目が似ていても、加工の技法や工程が違う品物があります。補正する場合も、手段や技法が異なりますので、正確な見極めが必要です。

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2018年08月03日