凛マガジン(いつの時代も人気)

●いつの時代も人気

●ゴージャスな輪郭

●派手さと生産性

●新技術の洗礼

●ママ振りのタイミング

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●いつの時代も人気

呉服の加工には、見た目がシックなものもあれば、豪華なものもあります。 地味なものでも、手間やコストがかかった高価なものもありますし、見た目がゴージャスでも、低コストで量産されるものもあります。 豪華に見える加工で、古今東西、人気が高いのが、金です。ひとくちに「金加工」といっても、純度の高い金を使ったものから、金以外の鉱物を金色に発色させるものなど、さまざまな手法があります。 金加工の種類や方法は、商品のランクや、生産コストによって使い分けられています。 そして、金加工でポピュラーなものに、「金糸目」があります。

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●ゴージャスな輪郭

「糸目」は、京友禅の特徴のひとつです。 絵柄の輪郭を、繊細な線で縁取ったように見せる表現手法です。絵柄を際立たせ、技術力も必要で、商品価値に影響する技法です。 元来、糸目は、絵柄を入れる前の白生地に、糊やゴム(最近では樹脂)を使って輪郭を描く工程を言います。糸目が終わったら、友禅で絵柄の色を入れます。糸目をした部分は、いわゆる「伏せ」になり、染料が入りません。 描画工程を終えて、糊やゴムを取り除くと、糸目を置いた部分は染まっていないため、極細の白い輪郭線が浮き出てくる──という工程になります。

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●派手さと生産性

糸目を金で行う技法があります。白い線ではなく、金色で糸目が入るのです。技法としては昔からあるのですが、樹脂など、新素材の普及によって存在価値がググッと上がりました。というのも、見た目の派手さに加え、生産効率を上げることが可能になったからです。 金糸目は文字通り、樹脂に金粉を混ぜて、糸目を置きます。そして友禅で絵柄を入れます。 旧来なら、友禅が終わると糸目を落としますが、金糸目の場合は落としません。 樹脂を落とす手間が発生しないので、生産効率が上がります。絵柄の輪郭が金色で縁取られ、豪華な印象になります。 金を使った糸目には、色々な種類があります。 1.普通に糊やゴムで糸目を置き、最後に糸目の一部を金彩で描く(塗る)加工。 2.金括り(きんくくり)  糸目を樹脂バインダーで置いて、最後に金彩をプレスして付ける加工。  プレスを組み合わせることで、揮発や水に触れても、金が簡単に落ちなくなります。 3.金糸目(きんいとめ)。  糸目を白い線ではなく、金彩を混ぜた樹脂で置く加工です。  樹脂部分に厚みがあり、膨らんだ感じに仕上がるため、「盛り金(もりきん)加工」とも呼ばれます。 豪華至上主義だったバブル期には、金糸目が多用されました。 呉服には流行がない、と言われますが、バブル期の振袖などを見ると、クスッと笑えるほどキラキラ全開!という品物もあります。

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●新技術の洗礼

人気の金糸目ですが、大流行から数年~数十年経った頃、トラブル事例が出てきました。 金糸目に使った、樹脂の劣化です。粘り気が出てベタベタしたり、糸目が溶けてにじんでいる、輪郭が消えている‥‥といった症状が報告されるようになったのです(全部が全部というわけではありません)。 粘り気や液化が、見た目でハッキリわかれば、まだ良いのですが‥‥整理屋さんを巻き込んだ、二次被害も出てしまいました。 決定的な症状が出ておらず、寸法直しやお手入れで整理屋さんに出すと、普通に湯のしの機械に入れられます。 高温の蒸気によって、粘りや液状化が、一気に進むことがあります。 運が悪い事例では、いっしょに整理をした他の商品に、溶けた樹脂のネバネバが付いた!という症例も出てきました。 新しい素材や技術が生まれると、あとでトラブルも起こるかも、と考える方が自然です。 素材や工程が良質であっても、加工直後に何も問題がなくても‥‥年月が経たないとわからない変化が、潜んでいるかもしれないからです。

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●ママ振りのタイミング

お母さんの振袖を娘さんが着る「ママ振り」がブームになっています。 金糸目のトラブルには、ママ振りブームで見つかったものが、かなりありました。 原因は主に2つ。 ひとつは、バブル期に金糸目が人気となり、多くの商品に使われたこと。もうひとつは、樹脂が劣化するタイミングが、ママ振りブームと重なったことです。 樹脂が流れて消えた!というものから、樹脂の劣化に気づかず、ローラーにかけてしまった!というトラブルもありました。 これはもう重症です! 商品の糸目は溶けて崩れていますし、整理屋さんの機械(ローラー)にも、溶けた樹脂が付いてしまってますから‥‥! ローラーを通った他の品物にも、溶けた樹脂がスタンプのように、等間隔に付着していたとか‥‥。 商品の補正だけでなく、巻き添えになった他の商品、整理屋さんの機械にまで被害が及ぶ事態になるわけです。 実は‥‥整理屋さんでローラーに樹脂が付着して、等間隔に打ち合いが付くという事故は、非常に多いんです(!!)頻繁に持ち込まれています。 金糸目をはじめ、樹脂の加工は、経年で品質が変化する可能性があります。 タンスで放置せず、たま~にお顔を見てあげましょう。

2022年08月31日