凛マガジン(帯のトラブル)

●帯のトラブル

●帯の種類

●便利だけど怖いこと

●取れないクセ

●僕らも専門家に頼みます

●最後にお願い

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●帯のトラブル

前号では、着付け時の小物のトラブルについてご紹介しました。今日はその続きとして、帯のことを書きたいと思います。 振袖や訪問着に多く見られるトラブルです。どちらも、パーティーや祝典など、華やかな場所での和装に多いです。 振袖をお召しになったことがあれば、「変わり結び」をご存じの方は多いでしょう。 通常、帯は、後の真ん中に「お太鼓」と呼ばれる大きな四角形ができるように結びます。 しかし、どんな場面でも毎回同じでは、面白くない‥‥と感じることもありますよね。そこで、パーティーなど、厳粛なフォーマルシーンでなければ、帯の結び方を変えて、蝶々やリボンのように、お太鼓とは違うモチーフを作ることがあります。 帯は、広げると1枚の布になり、同じ帯でも結び方でバリエーションができるのが、和装のいいところです。 が、結び方に注意しないと、難に発展してしまうことがあります。

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●帯の種類 フ

ォーマルシーンで着用される袋帯の種類(柄の入り方による分類)は、以下のようになります。 1.全通(ぜんつう):帯全体に、まんべんなく絵柄が入っているものです。総柄(そうがら)と呼ばれることもあります。 2.六通(ろくつう):流通している袋帯のほとんどが、この六通です。  帯全体の、約六割に絵柄があります。帯を締めるとき、一周目に巻く部分には、表から見えなくなるという理由で絵柄が入っていません。  締めると見えなくなる部分のことを「中無地(なかむじ)」と呼びます。 3.三通(さんつう):全体の、約三割だけに絵柄が入っています。  締めたとき、お太鼓になる部分と、前になる部分に絵柄が入っています。 全通帯は、どこが前やお太鼓になっても絵柄が入っているので、お値段は高めですが多様性のある帯です。 今日ご紹介するトラブルは、全通帯に多く見られます。

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●便利だけど怖いこと

全通帯は、どんな締め方をしても絵柄が表に出ます。 振袖や訪問着で、華やかさを演出したいとき、変わり結びに使えるのは便利です。ただし、六通や三通と違って向きを決める必要がないので、締める時には注意が必要です。 帯は、広げると平たい一枚の布ですが、どちらの端から締めるか決まっているのが一般的です。着用歴のある帯には、どちらか片側に、半分に折ったスジがクセになっているはずです。 絵柄に影響のない全通帯であっても、どちらから締め始めるか、決めておくことが必要になります。 以前の着用と反対側から締めたため、帯の両端に折れグセが着いてしまった全通帯をお預かりしたことがあります。 着せてもらう人は気づかなかったと思いますが、着付け師さんが慌てていたのか、気づかなかったのか‥‥いずれにせよ、締めたとき、お太鼓の真ん中に縦線が入ったようになってしまいます。光を反射する素材なので、スジが入ると余計に目立ってしまいます。

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●取れないクセ

袋帯の折れジワや折りグセは、着用すれば発生するものです。注意が必要なのは、袋帯には、折れると元通りにならない素材が入っていることがある点です。 折れると元通りにならない素材──具体的には、金糸銀糸、ラメ、切箔(きりばく)などがあります。 中でも、特に厄介なのが、切箔です。 切箔とは、薄い和紙に金箔を貼り付け、細~い短冊状に裁断したものです。これを、巧妙な技術によって帯の生地に織り込んでいきます。 仕上がった帯を見ると、金の入った織物に見えますが、厳密には帯の生地に、金箔を貼った「紙」が入った状態です。紙の性質上、折れ曲げられると跡(スジ)になり、元に戻らなくなるのです。 展示会などで、気に入った商品を体に当てて、顔映りを見ることがありますよね。ほんの数十秒、鏡の前で帯を折っただけで、不治の重症になるかもしれない、という怖いトラブルもあります。 ベテランの販売員さんはご存じなので、帯を折り畳まずに、うまく腰回りに当ててくれるはず‥‥なのですが、新人さんが対応したのでしょうか‥‥展示会場で折れグセがついた帯をお預かりしたこともあります。

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●僕らも専門家に頼みます

帯の折れグセがいかに難しいか、という点について、解説します。通常の正絹繊維の折れジワやクセなら、凛の工房でも直せます。 ただ、今日お話しした特殊素材の折れグセは、地直し屋の僕らであっても、専門の業者さんにお願いすることがあります。 一般には知られていないでしょうが、西陣専門の整理屋さんです。どんな道具や技術をお持ちなのかは、僕らもよく知りませんが、どうしても無理!という重症は、相談に乗っていただいてます。 依頼は「折れグセ」だけですので、汚れなど、他の難がある場合は、先に凛でキレイにしてからお願いしています。

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●最後にお願い

帯──特に今回のような、金銀ラメや切箔の入った帯は、着用後、良かれと思って和装クリーニングに出すのは控えてください。 詳しいクリーニング屋さんなら、預かり時に断られるかもしれませんが、逆にそれで正解です。 クリーニングでは、蒸気や熱を使って繊維を整えていきますが、この蒸気と熱が形状記憶作用となり、二度と元通りにならなくなるリスクがあるからです。 汚れているかもしれない、折れグセも心配‥‥という場合‥‥脱いだままの状態で結構です!

2020年12月01日