凛マガジン(仕立ての腕前)

●仕立ての腕前

●上手な人ほど

●仕立て関連のトラブル事例

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●仕立ての腕前

読者さまの中にも、和裁をされる方、お勉強中の方がいらっしゃるようです。

ご自身で縫われた品物のご相談をいただくこともあります。 経験がある方ならピンと来ると思いますが、熟練者と初心者では、さまざまなポイントで差が出てしまいます。

習い始めは、「運針」という針の動かし方の基礎練習が続きます。どの部分を縫うのかで、縫い目の細かさも変わりますし、縫っているうちに生地がズレてくることもあります。うまくいかず、くじけそうになることも多いそうです。 国内では、和裁の技術を認定する資格として、「和裁技能士」という国家資格のほか、社団法人が定める資格もあります。実技試験があり、実務経験がモノを言う仕事ですね。

憶測ですが‥‥昔の日本では、女性は学生時代に和裁を身に付け、お裁縫ができることが一人前(お嫁入り)の条件になっていました。資格で技術が管理されるようになったのは、むしろ和裁人口が少なくなってきたからではないかという気がします。 現に、熟練の仕立て職人さん(特にご高齢の方)、仕事が早くて腕が良くても、和裁士の資格がない方もいらっしゃいます。

また最近は、海外での仕立ても増えています。 特にベトナムは、国を上げて技術者の養成に力を入れています。僕らもよく現物を見ますが、仕上がりが美しく、高レベルの品物が多いです。 しかも、納期も早かったりするので驚きです。過去最速は(特急扱いで料金は上乗せでしたが)、検品と日本までの輸送期間込みで、5~6日で上がったこともありました。これには驚きました!

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●上手な人ほど

仕立ては、もちろんキレイに仕上げてもらうのが一番です。 ただし、染め替えなど、仕立てをほどく場合、上手な仕立て特有の注意点があります。

腕のいい仕立て屋さんは、縫い目がしっかりしているので、ほどくのも大変なのです。 洋裁でも使う「縫い目ほどき」を使うこともありますが、和裁職人の場合、なんといってもハサミが命でしょう。

刃の先がピーンと尖っているものが使われます。消耗したり、誤って落としたりすると使えなくなるという話も聞きました。

和裁の縫い方では、生地の表面に、縫い目のアタマがわずかに出ている縫い方が美しいとされます。生地を傷つけずに、小さな縫い目をほどくのですから、神経を遣いますね。 生地を傷つけないように、丁寧にほどいていきますが、キッチリした縫い目だと、ごくまれに、縫い糸のクズが残っていることがあります。 ほどいた後、全体をチェックしますが、細い繊維の断片だと、残留に気づかないこともあります。

前回の事例でも紹介しましたが、糸の繊維が残ったまま引き染めをすると、部分的に染料が溜まって色ムラになります。 繊維の残留がないか念入りにチェックすることと、適切な染色方法を選ぶ必要があります。

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●仕立て関連のトラブル事例

最後に、これまで携わった、仕立て関連の品物のお話をします。 いちばん多いのは、仕立て糸が、生地の織目の間ではなく、織り糸を貫通しており、生地が引きつれてくる‥‥
という症状です。

仕立て中の出来事ですから、工程中に気づきそうなものですが、実は違うんです。 仕立てる際、生地はピシッと整った状態ですし、仕立て終わるとアイロンでキレイにプレスされますので、引きつれの原因は目立ちません。 検品中に見つかったり、そのまま納品され、着用しているうちに糸が引っ張れてきた‥‥という品物も、いくつも見てきました。

また、色無地だと、パーツを縫い合わせるとき、一部のパーツがウラオモテ逆になっている、という品物もありました。 一般的に反物は、「丸巻きの内側が、生地のオモテ」という暗黙のルールがあるのですが‥‥裁断して並べたりしているうちに、一部のパーツが裏返ってしまったのでしょうね‥‥。

絵柄がなかったため、裏返りに気づかず縫い合わせてしまったのだと思われます。 このようなレアな間違いは、パッと見てもわからなかったり、「何かヘンだけど、どこがおかしいのかわからない」という場合がほとんどです。

何度か着用したら、生地の糸が引きつれてきた!など、着用後のお困りごとにも対応しております。

2018年10月03日