凛マガジン(布地幅が足りない)

●生地巾が足らん!

●例外的な縮みと、織り工程

●標準的な生地巾

●洋服と違うところ

●正しい採寸と、美しい仕立て

●フォローが必要

●生地巾伸ばしと、着方のコツ

 

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●生地巾が足らん!

今日ご紹介するのは、反物が売れて、お仕立て→お客さまに納品されるまでの間に発生するご依頼です。

問屋さん、小売屋さん、仕立屋さんから、「品物が売れて、いざ仕立てようとしたら、生地巾が足りない」と言われることがあります。 フツーに聞いて、これはオカシイ話ですよね。 まず、2つの疑問があります。

1.生地巾が足らないのに、なぜ売れた(売った)のか?

2.本当に、生地巾が足りないのか? 売れたということは、生地巾が十分あって当然、のはずです。

売れた後で、不足に気づくということは、

1.売り手・買い手のどちらかに、勘違いがある、または、2.採寸の誤り(測り間違い・見間違い)、または、3.パーツの取合など、裁断に問題がある‥‥ などが、推測できます。

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●例外的な縮みと、織り工程

例外として考えられるのは、生産中の、または仕上がった製品が、その後の環境で縮んでしまうことです。

特にちりめんなど、糸の撚り(より)が強く、伸縮性の大きな素材は縮みやすくなります。輸送中・保管中に、空気中の水分を吸って縮み、生地巾が短くなる可能性も、ないわけではありません。

本来、生地を織る段階では、(ちりめんほど伸縮の激しい素材でなくても)、仕上がりの生地巾よりは広めに仕上がっています。 織機で生地を織る時には、糸がピーンと張られています。織った生地を織機から外すと、糸の撚りが戻り、多少の縮みが発生するのが通常です。

ただし、このような反応や寸法差は、あらかじめ判っていることですから、織る段階で、縮み分を含んだ巾が設されています。 後工程の精練(組織を整える工程)でも縮みが発生しますが、これも同様に、縮みを計算したうえで生産されています。 やはり、極端な収縮は、頻繁には起こり得ないはずなのです‥‥。

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●標準的な生地巾

「生地巾問題」は、過去にも取り上げたことがありますが、それは古い反物の事例でした。

きものの種類によって異なりますが、生地巾は、規格で決まっています。 ただし、日本人の平均身長が伸びたことなどから、時代とともに、規格の標準値が変化してきた経緯があります。 ですから、 「母のきものを、自分用に仕立て直したいが、生地巾が足りない」とか、 「古着を仕立て直すためにほどいたら、生地巾が足りない‥‥」という話であれば、理解できます。

しかし、今日ご紹介する事例は、正真正銘・今の時代につくられた、新品の反物です。 身長が高い方、手が長い方、ふくよかな体型の方は、標準より多くの生地巾が必要となります。が、多少の余裕が含まれているので、ギリギリではありません。

たとえば、振袖の生地巾は、 尺五分(しゃくごぶ・約40センチ)から、尺一寸(しゃくいっすん・約42センチ)が標準的です。身長180センチぐらいまでの方なら、この巾で対応できます。 また、現在メインで流通している製品は、九寸八分(きゅうすんはちぶ)~尺巾(しゃくはば)と呼ばれるものですが、こちらも身長170センチぐらいの方なら、十分対応できます。 これだけ余裕がある割には、生地巾不足のご相談が多いのです。なぜでしょう‥‥???

例外的な縮み(素材の性質によるもの)でなければ、採寸ミス‥‥あと、考えられるのが、採寸の知識不足です。

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●洋服と違うところ

きものを着慣れていらっしゃる方は、ご存知でしょうが‥‥ きものの袖は、洋服のように、手のひらギリギリの位置までありません。和装に慣れていない方には、気持ち悪く感じるかもしれません。

かく言う僕らも、初めてきものを着た時には、袖口の位置が短すぎるような気がしたのを、覚えています。 先輩や、親から、「きものの袖は、そういうもんや」「洋服みたいに手の甲にかぶったら、カッコ悪いでー」と言われたものです。 「裄丈(ゆきたけ)」で、解説しましょう。 裄丈は、肩巾と袖巾の合計です。

首の付け根の「グリグリ(骨が出っ張っているところ)」から、肩・腕を通って、手首の「グリグリ」のちょっと上(ひじ側)までを測ることになっています。 この手首の「グリグリ」を、洋服と同じ感覚で採ると、きものの採寸より、2~3センチほど長くなってしまうのですが‥‥意外に知られていません。

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●正しい採寸と、美しい仕立て

標準体型なのに、生地巾が足りないとすれば――稀に、身長の割に手が長い方もいらっしゃいますが、おおむね身長に比例するものなので――採寸に問題があるかもしれません。

採寸をする人(販売員さんであっても)が、正しい計測ポイントを把握していなかったことも、過去にありました。 ある依頼者さんに話を聞くと、「洋服と同じ要領で」自己採寸した寸法で仕立てに出された、と判った例もあります(正しい採寸をすれば、不足はありませんでした)。

体に合った美しい仕立てには、正しい計測ポイントと、測り方を把握していなければなりません。

★手の上げ具合(真横・斜め・真下で、寸法が変わってくる)

★一回だけでは誤差があるかもしれないので、2・3回計測して、平均を出す方が確実、などなど。 基本的な寸法以外に、体型の特徴――胸板の厚さ、肩の形状(なで肩・いかり肩)など――を細かく見ることで、ひきつれやシワが出にくい、美しい着姿になるのです。 また、素材によっても、体への「沿い加減」が変わってきます。 実際にあった話ですが‥‥

一度仕立てたお店で、別のきものを誂えた方からのご相談でした。前回と体型が変わってないので、同じ寸法で仕立てたら、なーんか違う‥‥とおっしゃるのです。 前に誂えたものと比較しますと、寸法がいっしょでも、素材の柔らかいものとハリのあるものでは、体への沿いが変わり、着心地に影響していることがわかりました。

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●フォローが必要

和装に慣れた方から見れば、「そんなん、常識やん」でしょうが、知らない方が悪い、と言い切ってしまうのは、ちょっと気の毒な気がします。

せっかく和装に興味を持って、仕立ててもらうと決めたのに、採寸方法を知らなかったために問題が発生――ですが、「その測り方、違うで!」と教えてくれる人がいれば、防げたことなのです。 その証拠、と言うと変ですが‥‥ 着付けや和裁はもちろん、お茶やお花のお稽古をされている方からの発注では、「この数字、ちょっと不自然ちゃう?」という寸法は、まず見かけません。

正しい知識を教えてくれる、先生や先輩方がいらっしゃるからだと思います。 情けない話ですが、これは売る側も同じですね 昔は、小売店さんでなくても、メーカーさん、問屋さん、みんな採寸の知識があり、「ちょっと、モノサシを当ててみる」ことを怠りませんでした。

しかし今は、生産工程は「規格分の巾があるから大丈夫」、流通部門は「販売担当の、小売店まかせ」、販売部門は「接客担当の、店員さんまかせ」‥‥と、丸投げになっている感があります。

丸投げされた最終ポジション=販売員さんが正しい採寸を知らなければ、ヘンテコな品物が誕生してしまうのでしょうか‥‥?! 

それで済まされるのは、ちょっと納得できませんよね 消費者さまには、品物や価格比較だけじゃなく、きもの全般の知識や情報がわかる機会が、作り手・売り手には、お客さまに満足していただくための教育が必要‥‥だと思うのです。

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●生地巾伸ばしと、着方のコツ

古い品物の仕立て直しなども含むと、「生地巾を出して欲しい」というご依頼は、非常に多いです。

織り方や品物の状態によって、補正の可否は変わります(中には、どんな手段でも巾出しができず、お断りすることもあります)が、素材の特性に応じた方法で処理しています。

どんな生地も、時間が経つと、元に戻ろうとする力が働きます。なので、「その時だけ」にならないよう、伸ばした寸法を定着させる処置も行っています。 明らかな寸足らずには補正が必要ですが、着こなしでカバーできることもあります。 古いきものなど、寸法が短めのものをお召しになるとき、中のお襦袢が、ちょっと顔を出してしまうことがあります。「チラ見え」によって、きものの寸足らずが目立ってしまうので、なんとか防ぎたいものです。

着慣れた方は、「襦袢がチラ見えしないように、クリップで挟んでいる」、「糸でつまんでいる」といった、賢い裏ワザを使われる方もいらっしゃいます。

2019年04月02日