凛マガジン(汚れ)

●汚れ

●焼け

●売場のバタバタ

●売り方、扱い方の変化

●直すか、諦めるか●直し方

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●汚れ

売り場や流通で、商品が人の手に触れ、難が発生してしまうケースについて説明します。 売場では、商品が「仮絵羽仕立て(かりえばじたて)」で展示されることがあります。 仮絵羽とは、文字通り「仮に」仕立てた商品のことです。 反物を見ただけでは、着用したとき、どこにどんな絵柄がくるのかわかりにくいものです(業者や、きものに詳しい方は例外として)。 そこで、ざっくりした寸法で仕立てをし、マネキンに着せたり、衣桁(いこう=着物専用のハンガー)に掛けたりして展示するわけです。 仮絵羽の商品は、売場でも目を引き、触れられる機会が多くなります。そのため、どうしても手垢などの汚れが付きやすくなります。 展示していた仮絵羽が売れて、お客さまの寸法に仕立てる前、必ず仮絵羽をほどいてキレイに洗います。 僕らから言えば、仮絵羽に汚れが付いているのは当たり前のことです。洗えばキレイになるので、問題ありません。

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●焼け

仮絵羽で、汚れよりも少し深刻なのは、「焼け」です。症状としては、光による褪色です。 展示品は、人が着用した場合と違って、ずーーっと同じ形で、同じ場所に置かれています。 なので、決まった場所に光が当たって、焼けが起きやすくなるわけです。 以前のメルマガに書いたことがありますが、大きな窓から西日の入る売場に柱があり、柱の陰ごと、ガッツリ焼けた!という難もありました。 日光はもちろんですが、照明器具も同じです。 最近でこそ、LED照明によって焼けのリスクは軽減されていますが、スポットライトが当たっていたりすると、もうテキメンです。 焼けの難は、汚れ落としほどシンプルではありませんが、こちらもよくあることで、注意深く対応すれば問題ありません。

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●売場のバタバタ

さて、展示品の汚れや焼けは、古今東西ある、伝統的な(笑)症状だと言えます。 それ以外に、近年になって増えているのが、前号にも書いた「タグ」など、備品が関連する難です。 大規模な展示会場などになると、難が急増します。 持ち込まれる商品の数が、とても多くなります。それらを間違いなく管理するために、商品にはタグや札が複数付けられています。 そして、前号でも書きましたが、タグや札が、頑丈な素材に変化しています。 売り場では、お客さんと販売員さんが入り乱れ、商品を丁寧に扱う余裕がなくなってしまいます。 販売員さんは、売場の畳の上に反物を並べて、お客さんに見せます。 商品が売れたら、残った品物を片づけられれば良いのですが、お客さまの対応などで、売場には反物が残ったままになります。

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●売り方、扱い方の変化

大規模な展示会が一般的になったのは、バブル期ぐらいからだろうと思います。 昔ながらの呉服店は、接客も、商品の扱いもスローでした。 比べて今は、イベント会場ともなると、お客さまも販売員も多数です。商品もあちこち飛び回っていて、扱いが煩雑になってきました。 地直しアルアルで多いのが、床置きした反物を踏んでしまい、タグが引っ張られる難です。 引っ張られることでピンの穴が広がったり、ひどい場合はミミが裂けたりします。 そもそも、昔ながらの和紙製の札は、商品が傷つくような事故は、起こりにくかったんです。柔らかい素材で、商品を畳むとき、そっと内側に折り込んでいました。 ところが今のタグは、見やすいように商品から飛び出るように付いています。 素材が丈夫なため、引っ張られても切れることがなく、商品が犠牲になるわけです。 タグ同士が絡まって、商品を傷める難も多いです。 商品には問題なかったのに、タグが引っ張られてミミが裂けた、穴が空いた、といったご相談が増えています。

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●直すか、諦めるか

もともと商品の品質には問題なかった、そしてメーカーさんも悪くない。 なのに、売場での取り扱いが原因で、売れなくなってしまう商品が、一定数あるということです。 改めて考えてみると、呉服は他の業態と違うかもしれません。 たとえば、高級クリスタルの食器。 誤って店員さんが割ってしまったら、それはお店の責任になりますよね(店員さんにペナルティが課せられることもあるかもしれませんが)。 商品を見ていたお客さんが割ってしまったら、弁償を求められることもあるかもしれませんが、これもお店の責任です。 運搬中に商品が破損することもあるでしょう。その場合は、運送業者さんに請求書が行くはずです。 呉服の場合、グラスと違って、手間を掛ければ補正が効くという事情はありますが、必ずしも難を招いた人に責任が行くわけではない、というケースもあります。 難になった品物は、原則として流通経路を遡り、メーカーさんまで戻ってきます。

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●直し方 話は戻りまして、こうした難がどうなるか?ですが‥‥ 「タグ難」の症状には、幅があります。ピンを通した穴が大きくなっているもの、生地が破れているもの、ミミまで裂けてしまっているもの、糸が引けているもの、などです。 結論から言うと、直すかどうかは、先方のご意向によって違います。 商品が売れている場合、仕立てに影響が出るところだけ直して、とか、検品が厳しい取引先なので、コストがかかっても完全に直して、とか、いくらミミの難でも、直すのにコストがかかるのなら、直すのは諦める、という場合まで様々です。 直し方ですが‥‥ 穴が大きくなった症状は、繊維組織を構成するタテ糸・ヨコ糸を、1本ずつ戻して直していきます。 ミミが裂けた難は、かけつぎをして直します。そのかけつぎも、強度を優先するか、見栄え重視なのかで、直し方は違ってきます。 糸が引けた症状は、引けた糸のテンションを他の糸と合わせるよう調整して、元の状態に戻していきます。 【番号が付いたタグの説明】 1.白生地屋さんが付けたもの。製造メーカーの名前が入っています。2.販売したチェーン店が付けたもの。店舗名とお客さまの名前。3.小売店が付けたもの。商品番号と小売価格。4.問屋さんが付けたもの。商品番号が入っています。  ※4.以外は、タグガンで装着されています。

2022年12月26日