凛マガジン(絵柄の成り立ち)

●絵柄のなりたち

●高級品ぽく、お手軽に

●色素の定着

●柄が消えた?

●スピード描画の難点

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●絵柄のなりたち

きものの色や絵柄の表現には、いろいろな方法があります。 染色も、絵柄を表現する染色と、「地色」を染める染色があります。 絵柄を出す技法で最も有名で、人気も高いのが「友禅」でしょう。 友禅は、絵柄の縁取りになる部分を糸目と呼ばれるゴムや樹脂などで伏せ、染料で絵柄を描いていく技法です。 染色が終わってから糸目を落とすと、絵柄の輪郭が白く(=染まってない白生地の色)際立ちます。 友禅は糸目を使って輪郭を出すのが特徴ですが、他に、糸目を置かずに生地に直接描く「素描き(すがき)」などがあります。 地色を染める技法では、窯を使う「焚き染め」、ピンと張った生地に、大きな刷毛を使って染料を塗布していく「引き染め」があります。 地色を染める際、染まらない部分を作って絵柄を表現する技法もあります。ロウケツ染め、絞りなどが代表的です。 また、白生地を染めるのではなく、染めてある糸で生地を織る「先染め」など、いろいろあります。 さらに、染色後の工程として、金彩や刺繍など、地色と絵柄が入ってから、装飾的な要素が加わる加工もあります。※染色の後から行う加工を、文字通り「あと加工」と呼びます。 これらすべての作業・工程が組み合わさり、最終的な絵柄が完成するわけです。

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●高級品ぽく、お手軽に

描柄の技法は、この30~50年ほどで、飛躍的な進化がありました。もちろん、旧来の技法は今でも引き継がれています。 伝統的な方法以外に、機械やコンピュータ、化学薬品の開発が進み、昔なら長時間かかっていた作業が時短でできたり、複数の工程で担っていた作業がワンストップでできるようになりました。 なので、職人さんが長い時間をかけていた描画に近いものが、コンピュータ制御された機械で、短時間で作れるようになりました。 絵柄の表現にも、新しい技術がどんどん入ってきています。具体例として、友禅風の絵柄を型抜きに加工する技術があります。 絵柄の型を生地の上に置いて、上から染料を含ませたスポンジ状の道具でポンポンしたり、ピースガンと呼ばれる機械で、染料や顔料を霧状にして吹き付けることもあります。 型を外すと、クッキリ絵柄ができている!というものです。

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●色素の定着

伝統技法でも近代技法でも、染色に関してとても重要なポイントがあります。 それは、色素を定着させることです。 友禅では、染料で描いたあと、必ず「蒸し」という工程を通ります。高温の蒸気(80度以上)を当てて、染料を生地に定着させます。 蒸しが終わると、水で流す工程があります。余分な染料や、不純物を洗い流します。 これらの工程が粗雑(時間が短い、温度管理ができていないなど)だと、あとから色落ちしたり、絵柄のにじみを招く可能性があります。 染色以外では、金彩や螺鈿など、生地の上に「置く」技法があります。こちらも、金や装飾物が落ちる・剥がれるのを防がなければなりません。 古来ではデンプン糊、現在はゴムやバインダーと呼ばれる樹脂が使われていますが、接着剤の役割をする素材を使って、装飾が生地からはがれないようにしています。

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●柄が消えた?

で‥‥ ここまで、絵柄の説明を長々とさせてもらったのは‥‥最近、ある現象のご依頼が立て続けに入り、それが絵柄に関する症状だったからです。 ご相談の内容は、主に、 1.着ている間に、だんだん絵柄が薄くなってきた!2.クリーニングに出したら 絵柄が消えて返ってきた!3.絵柄の表面を指で触ったら、取れてきた といった内容で、なかなか深刻です。 しかも、1件や2件ではありません。同じメーカーさん、問屋さんから、毎日のように商品が送られてきているのです。 で、原因を調べると‥‥ 前述した「近代的な描画システム」と、関係がありそう‥‥ということになったのです。

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●スピード描画の難点 最初に、型抜きによる染色技法をご紹介しました。型は使いますが、染料を生地に当てるのですから、定着作業をしっかり行えば問題はないように思われます。 が、やはり職人さんが筆を使って描くのに比べると、染料の浸透や、生地への圧着度が違います。 そこで、染料を生地にピッタリ定着させるため、「染料にバインダーを混ぜた混合液を噴霧する」という技法が使われています。 染料だけだと定着が弱いので、接着剤に似た成分を配合してあるわけです。 ちょっと粘着性のある、生地に密着しやすい染料液‥‥というイメージでしょうか。 よく考えられた技術だと思いますが‥‥現物を検品しながら調べていくと、染料に混ぜたバインダーに、絵柄が落ちる原因が関係しているようでした。

2023年05月30日