凛マガジン(地直しの原点)


●直し直る=元通り?

●直ったと思ったら‥‥

●見えなくなったのに‥‥

●消えても安心できない

●見えなくなってもご用心!

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●直る=元通り?

「補正」イコール「元通りに戻る」ことだと思われている方は多いでしょう。もちろん、元通りになれば「直った」と言えますが、それだけではありません。

補正には、さまざまな技術や方法があります。補正の結果、ベストな状態が「元に戻る」です。 元に戻せない難を、目立たなくするのも「補正した」ことになりますし、柄を足したり染め替えたりして、元の形とは違う仕上がりで着用できるように仕上げることも、よくあります。

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●直ったと思ったら‥‥

先の例は、難が改善されているのでまだ良いのですが、怖いのは「直ったと思ったら、実は違っていた」というケースです。 実はこれ、職人でも見誤ることがあり、注意が必要です。

「他の地直し屋さんに頼んだら、納品された時は直ってたのに、また復活してる」といったご相談が、一定数あります

これは、手抜きや粗悪というよりは、難や品物の特徴を勘違いしている場合に起こりがちです。 僕らも、「やらかしそうになった」経験があります。実際の例で説明しましょう‥‥。

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●見えなくなったのに‥‥

濃いめの色無地の品物でした。1センチぐらいのシミができ、取ってほしいというご依頼でした。水滴が落ちたような、円形のシミです。

難の除去には、揮発溶剤や水(水溶液)を使いますが、水を使う方がリスクが高いので、まず揮発のテストからスタートします。 商品の端や縫いしろの内側など、目立たないところで反応を観察します。 大丈夫だったら、揮発溶剤を使って、難の変化を見ます。揮発で反応がなかったら、水または水溶液での処理を検討します。

この品物は、揮発とブラッシングを組み合わせると、反応が良かったので「これでイケる!」と思いました。 作業後、シミは完全に見えなくなりました。

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●消えても安心できない ところが‥‥

作業が終わって、シワを取るために蒸気を当てると‥‥

さっきまで見えなかったシミが、復活してきたではありませんか! 実はこのような現象は、珍しくありません。このような反応も予測に含め、認識を持って作業する必要があります。 なぜこうなったか? と言いますと‥‥

このシミは、水溶性の糊のような成分だったと考えられます。確定はできませんが、食べこぼしなどの原因もあり得ます。 そして、その成分が、繊維の表面だけでなく、内部まで浸透していたのでしょう。 表面に付着した成分は、揮発溶剤とブラッシングで見えなくなりました。 が、内部にはまだ成分が残っていたようです。それが蒸気の熱、および湿気を吸ったことによって、表面に浮上してきたのです。

一旦は見えなくなっても、成分が完全に除去されたとは限りません。この判断を誤ると「納品時にはキレイだったのに」という事態になるのです。

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●見えなくなってもご用心!

このシミ、最終的にどんな処理をしたかと言うと‥‥

水溶性の成分だったわけですから、揮発では除去できません。なので、ぬるま湯に洗剤のようなものを混ぜた溶液を使って落としました。 絶対に「ぬるま湯」でなければダメ!というわけではありませんが、温度が高い分、水に比べて作業効率が上がります。 また、温度が高すぎて「お湯」になると、繊維にダメージを与える可能性が出たり、また熱によって染料が泣くこともあるかもしれません。作業効率は考えますが、危険なことはいたしません(笑)。 ‥‥

といった感じで、僕らのような専門職でも、最終確認を勘違いすると、不完全な状態でお納めする結果になりかねません。それを防ぐためにも、慎重な検品とテストは不可欠です。 お直しの直後はキレイだったのに、また同じ難が再発している!という品物をお持ちであれば、類似のケースかもしれません。 ところで、この「直ってないけど、見えなくなった」という現象を使って、ちょっと特殊な補正を行ったことがあります。

2019年06月01日