凛マガジン(最近多いご依頼)

●なぜか、最近多いご依頼

●糸引けって何?

●生地か、染めか

●補償は、誰がする?!

●他の原因もある

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●なぜか、最近多いご依頼 難の依頼には、季節性のようなものがあります。 単純に、秋口に夏物の補正依頼が増える、のようなものもありますが、新人が研修で検品をする年度始めに問い合わせが増えるとか、卒業式・成人式で増えるトラブルもあります。 「糸引け」に関するご相談・ご依頼が多いのです。

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●糸引けって何?

糸引けという言葉、耳馴染みがない方も多いと思います。 文字から想像できますが、織物を構成する糸が、引っ掛けるなどの原因で引っ張られて、本来の位置からズレる現象を指します。 外見上は、生地の中から糸が1本(複数のこともあります)飛び出ている、または引っ張られて織目が崩れている状態です(糸が飛び出していない「糸引け」もあります)。 どの工程で起こったのか、なぜ起こったのか? を確定するのが難しいことも多く、各工程間で責任のなすり合いみたいになることもあります。 糸が引けてしまう原因には複数あるのですが、それがどの工程で起きたか?は、商品を見て確定できることがあります。 逆に言うと、商品が完成してしまうと、糸引け難がどの工程で発症したかはわからないこともある、ということです。

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●生地か、染めか

具体的に、糸引けに関連する工程について解説しましょう。 1本の生糸から始まる呉服づくり。その最初が、生地の織り工程です。 織り工程での糸引け難は、自動織機の不具合などで糸が引っかかるトラブルの他、地紋(織り方に変化をつけ、模様を表現する技法)など、特殊な織り方をして糸がフワッと浮いたところを引っ掛けしまう、みたいなケースもあります。 ざっくり言うと、経糸x横糸の密度がゆるいもの、織機の打ち込みが甘いものほど、糸と糸の間に空気が入り、糸引けが起こりやすいと言えるでしょう。 もちろん、織り上がった生地は丁寧に検品されるのですが、いかんせん染める前なので、微細な陰影などから難を見つけなければならず、見落とされることもあります。 症状も程度もケースバイケースで、明らかに糸が出ているものもあれば、角度によって光って見えるという微妙なものまで、さまざまです。 次に、生地には問題がなく、織り工程より後で糸引けが起こった場合。 たとえば友禅で糸が引ける場合は、伸子(生地をピンと張るための器具)の細い針で引っ掛けてしまったり、もともと糸引けが起こりやすい組織の素材を、染色作業中に器具などで引っ張ってしまう、など、こちらも千差万別です。

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●補償は、誰がする?!

さて、糸引けが出てしまった商品ですが‥‥ 糸が引けているのは見ればわかりますが、補正を行えばコストがかかります(僕らのお給料になるお金デス)。 補正工賃は誰が払うのかがハッキリしなければ、補正に着手することができません。 だから、「どの工程で、何が原因で出た難なのか調べて欲しい」と言われることは多いです。 補正の職人ですから、原因や経緯は調べます。 が、「難を出した先に連絡して、請求書も送っといて~」と、交渉役まで委ねられたりすると、心理的にもなかなかキツイです。 責任の所在トラブルで最も多いのが、糸引けが生地難なのか後工程で起きたのか、でモメるケースです。 生地を織る工程で糸引けが起こったのなら、検品で難を見落とした生地屋さんの責任、ということになります。 逆に、生地には何の問題もなかったのに、後工程や流通で糸引けになったのなら、生地屋さんは悪くありません。難を出した工程がどこなのか、確定してから補正に入ります。

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●依頼者で、対応が変わる!

糸引けの難は、誰からの依頼かによって、対応が変わります。 生地屋さんからなら、「生地難やったら直して。でも、後工程で引けたんやったら、直さんとって(織り工程の責任ではないから)」と言われるし、 染め屋さんからのご相談なら、「染色で引けた糸やったら、直しといて。でも、生地難やったら、生地屋さんに差し戻すから直さんとって」みたいな感じで、発症工程によって補正の段取りが変わります。 中には、後工程での糸引けだとお伝えしても、いや、これは生地難や!と言い張られることもあります(泣)。 さらには、生地屋さんが、差し戻された商品を見て、自社の過失ではないとわかっているのに泣き寝入り(濡れ衣)されるなど、苦々しい思いをすることもあります。 手仕事ですから、難が出てしまうことはあります。せめて、出てしまった難に関しては、責任転嫁せず、事実を認めてくれたらなぁ~と思います。

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●他の原因もある

生地織りや染色工程以外にも、糸が引ける原因はあります。生産工程ではなく、商品が売れてから糸引けになる事例について解説します。 1.ガード加工、柔軟加工 水性の汚れを防ぐ、着用時の風合いを良くするなど、ガード加工や柔軟加工というオプションがあります。いろんなメリットがあるのですが、油性の溶液を使うため、繊維の滑りが良くなる特性があります。これが逆作用になると、糸引けの原因になることがあります。 糸引けの原因を調べて、「これはガード加工の影響やなぁ」ということがあります。 ここでも、生地屋さんが巻き添えを喰らうことがあります。「おたくの生地は、ガード加工したら糸が引けるような品物なんか?」と、変化球を投げられるのです。 生地には問題ないのに、ちょっと乱暴な言い分ではないかなぁ??と思います。 僕らが見れば、生地に原因があるのと、ガード加工の影響で、糸が滑りやすくなっているのは、完全に別モノなんですけどね(泣)。 2.仮絵羽ほどき 反物を「仮絵羽」という形状に仕立てることがあります。マネキンや衣桁(=きものハンガー)にかけて展示されているのが、仮絵羽仕立てです。 着姿がわかるように、仮に仕立ててあり、商品が売れると仮絵羽の仕立てをほどき、反物の状態に戻してから、お客さまの寸法に合わせた仕立てに入ります。 ところが、この仮絵羽の仕立てをほどく際、縫い糸を乱暴に引っ張る人が、少ないとは思いますがいらっしゃるようです。 乱暴に引っ張って、糸引けになることがあるんです。 あと、以前のメルマガにも書きましたが、タグや値札などの付属物が引っ掛かって糸を引いてしまうこともあります。 3.着用中に 糸引けは、着用中の所作やトラブルで発症することもあります。糸が引けてギャザーになると、とっさに引っ張って直したくなるのですが、これは絶対にやめてください!! 二次被害ならまだマシ。自己処理したために、どの糸が原因だったのかわからなくなると、複雑化して補正ができなくなります。 脱ぐまでの時間、ギャザーが気になると思いますが、グッとこらえて、そ~っと脱いで、ご相談ください。

2023年04月29日