凛マガジン(難を決める作業)

●難を決める作業

●新人じゃなくても?

●意外と知られていない「当たり前」

●ナンチャッテ検品の被害者

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●難を決める作業

見間違いや勘違いなどで、難ではないのに「直してください」というご相談は、一定数あります。 「これは難ではありませんよ」とご説明し、納得されて依頼を取り下げるお客さまもいらっしゃいます。が、仲介で持ち込まれる方の中には、「お客さまに、直せますと言ってしまったから‥‥引っ込みがつきません。依頼通りに仕上げてください」と言われることもあります。 なぜ、難でないものに対して、難の判断がされるのでしょうか?それは、検品の正確さに尽きると思います。 正しい知識がなければ、難でないモノが難に見えることがあっても、不思議ではありません。 ちょっと脱線しますが‥‥小売店でも問屋さんでも、呉服業界では、四六時中、反物を扱っています。現場で働く人たちは、反物をキレイに、素早く巻けなくてはいけません。 メーカーさんや問屋さんに就職した新人さんたちが、最初に任される仕事が、在庫品や仕入品、納品前の検品です。 反物を巻く練習になり、目も養えるため、研修で学ぶ大切な仕事となります。業界アルアルで、年度初めに補正の依頼がドンと増えるのは、風物詩(笑)になっています。 研修中の新人さん、入ったばかりですから、商品知識がありません。真面目で責任感の強い人ほど、少しでも怪しいな? と感じたら、難を示すシールを品物に貼って、地直しに依頼をかけます。 もちろん、本物の難もありますが、シールだらけ(笑)のものもあります。 あ~、新人さんが入ってきたんやなぁ~、と感じる瞬間です。

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●新人じゃなくても?

年度初めに難が増えるのは、新人さんたちの育成に関わることですし、ある種、微笑ましい現象と言えなくもないです。 ところが最近は、新人さんじゃなくても、ナンチャッテ検品が増えているのです。 ジャンル的にはいくつかありまして‥‥ まず、海外の材料や人材を活用して、量産品を作っているメーカーさん。材料や人件費ですら削減したいのですから、ベテラン職人が検品を担当するとは考えにくいでしょう。 加えて、最近台頭してきているのが、着付け教室など、きもの製造販売以外の業種です。 昨今、無料で習える着付け教室が増えています。大手だけでも、数校ありますね。 レッスンは無料でも、入会金など他の名目でお金を払うのかと思っていたのですが、そうではなく、本当に無料みたいです。 無料レッスンを行う教室は、会社組織になっていることが多いです。教室とは別に、販売や仕立て、加工を行う部署(または別のグループ会社)があるわけです。 大規模な教室になるほど、多くの生徒さんがいらっしゃいます。着られるようになったら、やっぱり自分のきものが欲しくなりますよね。 レッスンが無料だったから、浮いたお金できものが買える!という背景もあるでしょう。レッスンが終わると、大量のきものが売れるのです。 売れたきもの(反物)は、まとめられ、検品されて、ガード加工や仕立てに回るのですが‥‥ 呉服屋さんやメーカーさんではないため、着付け教室系の検品には「??」となるものが多いのです。 そしてそれが、まとめて凛にやってきます。 現場をご覧になったら驚かれるでしょうが、それはもう、すごい数で‥‥難の指摘箇所も大量です。

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●意外と知られていない「当たり前」

ナンチャッテ検品の具体例を、ひとつご紹介します。 先日、凛にやってきた品物なんですが‥‥結果から言うと、難でも、B反でもありませんでした。でも、難だと言われたのです。 通常、きものを作るとき(反物に絵柄を入れる工程)は、標準寸法で作られます。 標準寸法は、身巾が前巾6寸5分、後巾は8寸となっています。 当然ですが、すべての人が標準寸法にピッタリ合うわけではありません。標準より細い方も、ふくよかな方もいらっしゃいます。 生地を裁断することなく、仕立てと着付けで、体型に合わせて着られるのが、きものの良いところですよね。 標準サイズの反物を、標準サイズではない方のために仕立てるとどうなるか? と言いますと‥‥ 前や背中の中心では、絵柄がズレないよう、ピッタリ合わせます。 標準寸法との差は、脇で調整されます。そして、脇(=左右の体側)で、絵柄がズレたり途中で消えたりすることは、普通にあるんです。 ですが、このことは意外と知られていないようです。

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●ナンチャッテ検品の被害者

「仕立てが終わった品物を見たら、脇で絵柄がズレている。絵柄が合うように直して欲しい」というご依頼がありました。 しかし、これは難ではありません。着用される方の寸法に合わせて仕立てたからであって、このままで良いんです。販売される業者さんに、知識がなかったのでしょう。 お店の方がヘンだと思ったのか、または商品を受け取ったお客さまの勘違いだけど、知識不足のために説明できなかったのか‥‥詳細はわかりませんが。 勘違いの難で厄介なのは、きちんと仕事をしているメーカーさんや職人さんたちが、責任を追求されかねない点です。 この依頼者さまは、「絵柄が合わないのは、仕立て屋さんが間違えた、もしくは、メーカーさんが絵柄を入れ間違えている」と、本気で信じていらっしゃるのです。 この主張を受け入れて、僕らが勝手に絵柄を描き足して、絵柄が合っているように加工する、ということはできません。誤った解釈に加担して、難を創ることになってしまうからです。 で、この品物の顛末がどうなったか?と申しますと‥‥結構よくある話なんですが、生地の伸縮特性を利用して、ある程度まで柄を合わせました。 その品物を依頼者さまにお見せしたところ、ビフォー・アフターの変化を見て、納得してくださいました。そして、お客さまには文書を添えて説明し、納品するとのことでした。 ふくよかな体型の方の場合、「スマート仕立て」という方法で、絵柄のズレを軽減させるテクニックもあります。

2022年10月30日