凛マガジン(蒸気と引っ張り)

●蒸気と引っ張り

●ピンは怖い

●強力マングル

●マングルの難は大変!

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●蒸気と引っ張り

湯のし(整理工程)での難の発生は、頻繁ではありませんが、一定数あります。 品物の種類にもよりますが、依頼する整理屋さんが、どんな設備や機械を使っているかによって、かなり変わってきます。 ひとくちに「湯のし」「整理」といっても、方法は複数あり、さらに整理屋さんによって、やり方も得意分野も違っています。 機械にもいろんな種類があり、蒸気を使う点は同じですが、温度設定や力の加減などは、整理屋さんによって違います。 とは言え、生地の目や巾を均一に整える作業という点では、共通しています。 で、ここからが今日のポイントになりますが‥‥ 生地の目や巾をキレイに揃えようとすると、どうしても適度な力で引っ張ってやらないといけません。 そして、引っ張る際は、生地がズレたり歪んだりしないように、固定してやらなくてはなりません。

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●ピンは怖い

生地がズレないようにする方法は、いくつかあるのですが、比較的よく使われるのが、金属の「ピン」です。 生地を湯のしにかける前、両端を軽くピンで留め、生地巾がキレイに揃った状態で蒸気を当てて整理をしていきます。 ところが、このピンが悪さをすることがあります。 柔らかくてデリケートな性質の生地だと、湯のしの後、ピンの跡が穴になって残ってしまうことがあるんです。 生地を超拡大して見たとしたら‥‥ 生地の目の間にピンが入ります。ピンの入ったところは、織り糸が前後左右に動きますよね。 そして、その状態で高温の蒸気が当たると‥‥品物によっては、ピンが刺さった状態で組織が「形状記憶」されてしまうんです。 だいたい整理屋さんは、この生地ならピン跡になるな? と見立てが付くはずなのですが‥‥ 依頼者が事前に説明していなければ、湯のし後の状態を予想するのが難しい品物もあります。 実際、凛でもピン跡が残った整理難を補正したことがあります。 頻繁にいただくご依頼ではありませんが、出ると多数になります。 いわゆる「量産品」などで、変わった素材が使われた場合、その素材の特性に慣れていないことなどから難になるのではないか、と解釈しています‥‥。

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●強力マングル

マングルという言葉をご存じでしょうか? 「マングル・機械」で検索してみてください。巨大なローラーが並んだ、大きな機械の写真が出てきます。 昭和時代、はじめて家庭用に発売された電気洗濯機には、脱水機能がありませんでした。 代わりに、洗濯槽の外側に、手回しのローラーが付いていました。洗った洗濯物は一着ずつ、ローラーに挟んで水を絞って、脱水していたのですが‥‥それの超大型版みたいなものです。 挟んだり、シワを伸ばす機能で、クリーニングや印刷業界でも使われているようです。 説明で脱線しましたが‥‥ ローラーにかけることで、シワやクセが伸びて、キレイに整うのです。ただし、マングル式の湯のしは、挟む力で矯正するので、どうしてもペラーンとした仕上がりになります。 ふんわり仕上げるには、マングルのあと、もう一度蒸気を当てて、繊維を膨らませるような処理をしています。

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●マングルの難は大変!

さて、マングル式の湯のしは、強力な力でプレスされるので、シワや凹凸をキレイに消したい場合は適しているのですが、誤って操作してしまうと、取り返しがつかないことになります。 湯のし屋さんは、生地を一反ずつ機械にかけたりはしません。巨大な機械に、一反ずつセットするのは非効率だからです。 注文を受けた反物を、数十反まとめて、端をミシンで縫って、長~~~い一反の反物のように合わせます。 そして、その状態で機械にかけるのですが‥‥ごくまれに‥‥ 反物をつないだ「端縫い」の部分が折れ曲がっているのに気づかず、そのまま機械に入ってしまうことがあります。 すると、生地が折れた状態で整理され、繊維も折れてしまいます。 折れキズでも、蒸気だけの湯のしなら、まだ直しようがあるのですが、マングルが絡んでいると重症です。高温・高湿プラス、ローラーの圧力も加わるため、まず直りません。 無地や小紋など、絵柄が関係ない品物なら、パーツの断ち合わせを変更して、キズの部分が品物に入らないように工夫できることもありますが、どうしても直らない場合は、外観上目立たなくするような回避策を考えるか、それでも可能性がなければ‥‥事情を話して謝罪→最悪、買い取りになります。 表には出なくても必要な工程が、呉服づくりにはいくつもあります。 湯のし(整理)は、完成までに何度も通りますし、1回の加工単価は安いものなのです。 それが、ちょっとした見落としや不注意から買い取りになると、工賃の何倍ものコストがかかってしまいます。 湯のしに出す前に、どの整理屋さんが適しているかを検討し、商品に関する特徴や注意事項を伝える、そんなちょっとした「ひと手間」が、呉服業界のチームワークを強めるのではないかと思っています。 どんどんエピソードが思い出され、次回も、湯のしのトラブル事例をご紹介することになりました。

2022年07月31日