凛マガジン(悉皆屋さん)

●悉皆屋さん

●得意分野に合った仕事

●なんでもできないとダメ

●トップクラスは

●希望の光

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●悉皆屋さん

呉服業界には欠かせない、悉皆屋という職業があります。 ネット辞書などで調べますと、“江戸時代、大坂で染め物・洗い張りなどの注文を取り、京都の専門店に取り次ぐことを業とした者。転じて、染め物や洗い張りを職業とする人 ”とあります(出典:コトバンク:「悉皆屋」)。 現在はこれに限りませんが、ざっくり言うと‥‥悉皆屋さんには、取引のある職人(または業者)が複数居て、その人たちの専門分野や技能に合った仕事を取る営業マンの役割、そして、各工程を行き来しながら呉服(反物)を完成させる、現場監督のような立場でもあります。

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●得意分野に合った仕事

職人さんには、それぞれ専門がありますが、悉皆屋さんも同じです。当然のことですが、お付き合いのある職人さんの能力や専門性によって、悉皆屋さんの専門分野は変わるわけです。 なのですが‥‥昨今「得意分野だけでは食べていけない」と、方針転換する悉皆屋さんが増えてきました。 理由はお察しの通り、呉服の売上・流通数が減少し、得意分野だけでは生計が成り立たないからです。 また、悉皆屋さんは職人さんを抱える立場で、人柄も親分肌的な方が多いです。 仕事が減ると、困るのは自分だけじゃない、職人たちが食いっぱぐれては困る!という思いで、得意分野以外のことを学んだり、新規参入をする人が多くなりました。

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●なんでもできないとダメ

こうした状況は呉服業界だけでなく、社会全体に言えるかもしれません。 戦後のヤミ市から個人商店が発展し、僕らの親の世代は「野菜は八百屋、肉は肉屋で買う」が普通でした。 それが、スーパーができてから一転、個人商店は売上で苦しむことになります。 さらに今のコンビニは、品数が豊富なだけでなく、銀行のATMはあるわ、税金の支払やネット通販の荷物まで受け取れるのです。「なんでもできた方が」大衆には便利で受け容れられるのでしょう。 呉服業界でも、早い時期から「なんでもできる」に目を付けた人たちが居ました。早くから、他分野を手掛けるようになったところは、今も残ってます。 一方で、高い技術がありながら、専門性に特化するゆえ、苦しんでいるところもあります。 専門分野で継続するのが悪い、と言っているのではありません。ただ、それが現状ではあります‥‥。

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●トップクラスは

呉服の世界で有名人と言うと、まず思いつくのが友禅などの作家先生です。 それ以外にも、各工程で、人間国宝や伝統工芸士など、最高レベルの技術を要する方がいらっしゃいます(表に出ない工程で、一般には知られていない方も多いです)。 名の知れた、一流職人さんには、常に注文が来ます。ですが、それはごく一部。人知れず、コツコツと地味な作業を繰り返す仕事も多いです。 大半の会社さん、職人さんは、売上減少でお困りではないかと思います。

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●希望の光

今年最後のメルマガを、暗い雰囲気で終わらせるのは不本意なので、最後に希望が持てるお話をしましょう。 ひとつは、後継者育成に尽力する職人さんたちです。 すべての工程ではありませんが、熟練職人さんたちの中には、これまでの取引先や人脈に関係なく、希望者のいる現場に、技術指導に出向いているベテランさんがいらっしゃいます。 今は動画サイトで何でも検索できますが、目の前で、最高レベルの仕事を肉眼で見られるですから、教わる方も気分が引き締まることと思います。 もうひとつは、「呉服づくりを学びたい」という若い人が居てくれることです。 最近お話をした中では、友禅に必要な「糸目」の職人さんが印象に残っています。 糸目は、友禅の絵柄の輪郭を、染料が入らないように細い線で防染する技術です。白生地に描かれた下絵の輪郭を、デコレーションケーキのクリーム飾りを作る口金のような器具を使って、細い線で覆います。 今は、ゴムや樹脂など扱いやすい素材が大半ですが、昔はデンプン糊で行っていました。デンプン糊は、樹脂に比べて途切れたり、ムラになったりしやすく、一人前になるには何年もかかるのです。 若い女性の職人さんでしたが、「今は、即戦力になるよう樹脂糸目をやっていますが、将来的には糊糸目も習得したい」と、ご自身の夢を話してくれました。 彼女のような頼もしい存在、まだ数は少ないですが、とても有難いことだと思います。少数でも、興味を持ってくれる人、学んでくれる人がいれば、呉服づくりは守られると信じています。

2021年02月07日