凛マガジン(職人が知らない・・)

●職人が知らない品物

●衣装の世界

●これ、何?!

●ウソつき襦袢

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●職人が知らない品物

地直しという仕事を通して、糸や生地、織りや染色などの技法‥‥素材や加工には精通していると自負していますが、そういう僕らも知らない品物があります。

地直しの仕事のルートは、大きく分けて2つ。 製造工程中に生じた難(業界内)と、品物の保管中や着用時に出た難(販売後、消費者さまから)です。 この中で、補正の現場にはあまり持ち込まれない品物があります。 和装小物などに多いのですが‥‥

品物が売れたあと、使用中に汚れたり難が出たりしても、わざわざ地直し屋に依頼するほどではない‥‥

と判断されるものです。 補正コストよりも、新しいものを買う方が安かったり、プロに頼まなくても自宅で洗える‥‥など。

このような品物は、地直し屋に持ち込まれることがほとんどないので、僕らが知らないケースもあります。

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●衣装の世界

装束や衣装の類は、専門のルートや技術者が決まっているため、凛にやってくることはほとんどありません(専門職の方がお困りになって、人を介して相談が舞い込むことはありますが)。

衣装と言えば、昨年‥‥。歌舞伎の舞台裏を紹介するテレビ番組を見ました。 公演までの密着取材、お稽古の様子のほか、衣装部門の舞台裏も紹介されていました。 一般の舞台公演は、役者さんごとに衣装を誂えますが、歌舞伎は違います。 代々受け継がれた品物を使うため、役者さんに合わせて「誂える」のではなく、ひとつの品物を役者さんの体型に合わせて「仕立て直し」ます。

ほどきと仕立てが頻繁に行われるため、通常よりも粗い縫い目で縫われます。 至近距離で見られることがないため、少々縫い目が大きくてもわかりません。 舞台衣装ならではの特徴ですね。このように、衣装や装束は、一般の呉服とは違う事情や背景があります。

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●これ、何?!

お得意先の小売店さんから、ダンボール入の荷物が届きました。

当時、凛にいたスタッフのおばちゃんが箱を開けるのを横で見ていると、見たことのない品物が出てきたではありませんか! 「これ、何?」と訊くと、「知らないんですか? 『ウソつき襦袢』ですよ」と言われました。

肌襦袢を長襦袢を重ね着する必要がなく、暑い日には便利なんですよ、と説明してくれました。 読者さまにはおなじみの方が多いでしょうが‥‥僕らには、この時が初めてだったのです‥‥

ウソつき襦袢(笑)。 地直し屋で独立するまでのキャリアも含むと、呉服業界に入ってから30年になります。しかし、長い間「ウソつき襦袢」は知りませんでした。 理由は前述の通り。

ご自宅で洗えたり、クリーニングで対応できたりと、割高のコストを払って地直し屋に依頼されることがなかったのです。

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●ウソつき襦袢

ご存知の方も多いと思いますが(^_^;)嘘つき襦袢は、お襦袢を着ているように見えますが、構造が違います。

僕らは最初「ウソつき襦袢」と教わりましたが、後にそれが「大ウソつき襦袢」なる別バージョンであるとわかり、いろんなタイプのウソつき」があるのだと知りました(笑)。

通常の「ウソつき襦袢」は、袖と裾だけがお襦袢風で、他の部分はサラシなど、通気性の良い素材が使われています。長襦袢と肌襦袢の合体版のような感じです。 「大ウソつき襦袢」は、袖だけがお襦袢と同じで、上半身(身頃)だけの品物です。 また、袖が取り外せるようになっているので、汚れたり劣化したら、袖だけを洗ったり、新品に交換することができます。

他にも、二部式(上半身と巻きスカートタイプの2点セット)など、複数あります。 袖の交換は、端切れ程度の生地量で済むので、コスパが良いです。北野天満宮の「天神さん」でも、交換用の袖の生地が売られているのを見たことがあります(知らない頃は、小物を作るための端切れだと思っていました)。

付け替え用の袖には色柄ものもあるので、お手頃は価格おしゃれが楽しめるのも、メリットかもしれませんね。

2019年03月03日