凛マガジン(古着の特徴)

●どうしたらいい?

●古着の特徴

●クセと繊維

●キズと染め方

●引き染めのムラを消す

==============================

●どうしたらいい?

現在出ている難について、このままだと○○年後どうなるの?といった未来予測、着用後のお手入れやリメイクのご相談もいただきます。

どんな加工をするのが良いかは、先方のご希望だけでなく、現物の状態を詳しく知る必要があります。ですが時々、現物ナシで、口頭だけでのご相談(質問)があります。 このような相談が来るのは、もっぱら業界内です。

お付き合いのあった職人さん・悉皆屋さんが廃業されたなどの理由で、相談する相手が居なくなり、わからないから凛に電話‥‥みたいなパターンです 話は親身になって聞きますが、相談だけで依頼にはつながらないので、正直時間は取られます。

==============================

●古着の特徴

古着は消費者さまに大変な人気ですが、最近は業界でも、古い品物のご依頼が増えています。 古着で難しいのは、以前の持ち主さまがどんな着方・どんな保管をされていたか、わからないところです。

難の症状や成分は、検品やテストでわかります。が、口頭で「シミが出てる」と言われても、詳細はわかりませんし、そのきものが薬剤処理に耐えられるかもわかりません。 僕らが、極力低リスクで補正できるのは、検品やテストで繊維の状態を把握しているからです。

古着では、仕立て上がり品のご相談も多いです。こちらも、口頭だけだと不明点が多くなってしまいます。 凛で加工や補正をする場合、まず、仕立てた状態で最初のチェックをします。 全体を細かいところまで見て、難を拾い出します。あと、部分的なスレや繊維の伸びなどから、持ち主さまの動作のクセもチェックします。

==============================

●クセと繊維

この、持ち主さまの動作のクセというのが、実は加工手段に影響することがあります。

今日は、口頭だけでの相談のデメリット、クセを見落としたために「回り道」になってしまった実例をご紹介します。 ある生地屋さんから、電話がありました。無地のきものの染め直しをしたいとのことでした。

「どうしたらエエ?」と訊かれましたが‥‥現物を見ていないので、正直わかりません。 染め直しと言っても、「引き染め」と「焚き染め」があります。

引き染めは、きものの生地を水平にピンと張り、染料を含ませたハケで染めるもの、焚き染めは、染料の入った窯に品物を浸して、染料を浸透させる方法です。 両者は、コストや手間にも違いがありますが、特に古着の場合、染め方が天地を分けてしまうことがあります。 品物の状態によっては、染めで「ボロが出る」ことがあるからです。

==============================

●キズと染め方

引き染めと焚き染め、それぞれのリスクも説明しましたが‥‥結局その生地屋さんは、「引き染め」を選ばれたようです。

一件落着‥‥と思いきや! ‥‥しばらくして、その品物は凛にやってきました(!)「染める前はわからなかったのに、色ムラになってる」とのことです。

品物を見てすぐ、「あーあ、そらそうや」と思いました。着ていた方のクセが、見抜けていなかったのです。 古着の場合ほぼ100%、部分的な繊維の損傷があります。着用や動作によってできるもので、同じ箇所を引っ張る、膝を付くなど、繰り返し負荷がかかった部分が傷んできます。

この品物は、前身頃のヒザの辺りに「スレ」が発生していました。おそらく、正座で負荷がかかったり、ヒザと畳との接触が重なったのだろうと考えられます。 このように、繊維の状態が均一でない状態で引き染めを行うと、スレた部分に染料が溜まりやすくなります。その結果、スレた部分の色が濃くなり、ムラになったというわけです。

凛で染め直しをお受けしたら、引き染めは使いませんでした。 あとで聞いたら、「高級感があるから」と、引き染めにされたそうです。

※昔は、引き染めは焚き染めより高級感があると言われていました。 実際、コストも焚き染めよりずっと高いです。が、現在、引き染めと焚き染めの見た目は近くなってきており、業界でも見分けられる人は少ないです。 奮発した引き染めで、残念なことになってしまいました。

==============================

●引き染めのムラを消す

良かれと思った引き染めで、二度手間になってしまったという、気の毒な実話です。

ムラムラでは商品になりませんから、ここでようやく(笑)、凛に依頼となりました。 このケースでは、まず一度、染めた色を完全に抜きました(抜染)。その後改めて、焚き染めで染色をしました。

色ムラもなくなり、ご満足いただきました このように、古着の加工では、通常の検品以外に「もうひと押し」、先を読んだ見立てが必要です。 細かく検品することで、「この状態で○○を行えばどうなるか?」という推測ができ、リスクの少ない補正ができるのです。

凛に相談して、加工は自分の知っている業者さんでやってもらう‥‥という依頼者さんの気持ちはわかりますが‥‥「それやったら、最初からウチに頼んでくれたら、悪いようにはなりませんよー」という本音もあります

2018年09月04日